嵐山町web博物誌・第7巻【祭りと年中行事編】
冬の祭り
火渡の果てに麦の芽揃ひたる 山田美子
季節は巡り、里山は再び静けさに包まれています。人影が薄くなり、小鳥たちもいつのまにかどこかに去っていきました。ときおり、落ち葉を空高く舞い上げる木枯らしに、肩をすくめます。太陽までもが薄衣(うすぎぬ)をまとい、足早に山の端(は)に向かっているように思えます。夜がずいぶんと長くなりました。
田畑の大仕事はひとまず終わりです。ようやく一息つきますが、この時期一番の気がかりは、火事が起きやすいことです。火事を出さぬよう、また風邪などをひかないように気を引き締めます。
仕事をしているときの一日、一日はとても長いのに、気がつけばあっと言う間に一年が過ぎて行きました。
1.亥の子・十日夜|村の行事,畑作の行事
旧暦十月一日は十日夜で、子どもたちがワラデッポウ(藁鉄砲)を持って地域の各家の庭先をたたいて回ります。ワラデッポウは稲藁を束ね、回りを縄でぐるぐる巻いたもので、中に芋がらを入れるといい音がします。十日夜にワラデッポウで地面をたたくともぐらの害に遭わないとか、大根がよく伸びるという伝承があります。
十日夜の前日は「亥の子」で、埼玉ではこの行事が比企・入間地域に多くみられます。嵐山町では亥の子様と呼ばれ、その年収穫した糯米(うるちまい)でイノコノボタモチを作って神仏に供えます。このほか、「亥の子様へ」といって、ぼた餅を箕に入れて縁側へ供えた家もあります。
◇唱え言葉
十日夜のワラデッポウを地面にたたきつけるときの唱え言葉は地域によって異なります。次に示す唱え言葉は、埼玉の代表例です。
①トオカンヤ トオカンヤ
(十日夜 十日夜)
イノコノボタモチ ナマデモイイ
(亥の子のぼた餅 生でもいい)
②トオカンヤ トオカンヤ
(十日夜 十日夜)
アサソバキリニ ヒルダンゴ
(朝そばきりに 昼団子)
ヨオメシクッタラ ヒッパタケ
(夕めし食ったら ひっぱたけ)
③トオカンヤ トオカンヤ
(十日夜 十日夜)
オシノテッポウニ マケンナー
(忍の鉄砲に 負けんなー)
亥の子のぼた餅
【冬の祭りの風景】
十日夜の前日はイノコ(亥の子)で、ぼた餅を作りました。一升の米で九つという大きなもので、このぼた餅を一升ますに入れて供えました。一升ますを伏せて四つずつ二段に積み、その上にぼた餅を入れた升をのせるようにしました。
ぼた餅の作り方
大根と柿のよくできるはなし
十日夜は「大根の年とり」といって、ワラデッポウ(藁鉄砲)で地面をたたくと大根の頭が抜き出る、つまり大根が伸びるといわれました。東北から中部地方にかけての地域では、十日夜を「大根の年とり」とか「大根の年越し」と呼んでおり、ワラデッポウの音を聞いて大根が育つと伝えられています。また、十日夜までは大根を取るなとか、この日は大根畑に入るなともいわれています。
十日夜のワラデッポウは、翌朝、柿の木につるすと柿がよく実るともいわれています。
ワラデッポウ(藁鉄砲)作りのはなし
十日夜で地面をたたくワラデッポウ(藁鉄砲)は、稲藁の束の回りをわら縄でぐるぐる巻きます。わらの芯に芋がら(里芋の茎)や茗荷(みょうが)を入れると音が澄んでよく響くようになるといわれています。