嵐山町web博物誌・第7巻【祭りと年中行事編】
風祭り
笠懸の弓矢を濡らす秋しぐれ 種村武徳
暑い夏を追い払うように、台風はやってきます。そしてまるで、二百十日の走り穂を狙い定めたかのように。
いつもと向きの違う、湿気を含んだ重い風―鈍い鉛色に沈む空―だんだんと強まる雨足―この半年の汗の結晶を一夜にして失う恐怖―眠れない夜。
自然のなせる技に、人はあまりにも無力です。それでも、人は祈ります。田に風切りの鎌を立て、夜通し経を読み、先祖の霊を供養します。
生きるため、明日に命をつなぐための、少し悲しい風の祭です。
1.二百十日|家の行事,稲作の行事
立春から数えて二一○日目は、「二百十日」と呼ばれています。この時期になると、田んぼの稲の生長も佳境を迎え、実りの秋を待つばかりとなります。「二百十日の別れ水」とむかしからいわれたように、田の水を落として稲の完熟目前までこぎつけ、まずはひと安心といったところですが、この季節は台風の脅威にさらされることが多く、一瞬の暴風雨で「二百十日の荒れじまい」という結末になる恐れもあり、農家は気が気でありませんでした。そこで、二百十日のころは各地で風水害の防除を祈願する行事が行われます。
嵐山町遠山では、この日まんじゅうを作ってお日待ちを行いました。
八朔(はっさく)の節句
【風祭りの風景】
八朔は旧暦八月一日のことで、この日全県的にその年嫁いだ嫁が生姜(しょうが)や赤飯をもって里帰りを行いました。そして、帰りに新しい箕(み)をみやげに持ってくる習わしで、これを「生姜節句(しょうがぜっく)」と呼びます。生姜と箕のやりとりは、「しょうがない嫁だが、みなおしてくれ」という意味を表すといわれています。