嵐山町web博物誌・第5巻「嵐山町の中世」
COLUMN
8.コラム:上野天神山石材の流通
石の産地
畠山重忠や岡部忠澄墓所の五輪塔に用いられた石材の一種類は上野(こうずけ)(群馬県)天神山(てんじんやま)産の凝灰岩です。
ここから産出される凝灰岩は、白色できめ細かく、質の良い石材であったことから、中世には石塔や石仏に盛んに使われました。石仏や宝塔・層塔・笠塔婆・角塔婆などさまざまな形の供養塔に用いられていますが、なかでも五輪塔が最も多くみられます。
天神山は中世には新田荘(にったのしょう)と呼ばれる地域の北部に入っていました。上野国東部に勢力をはっていた新田氏の保護下で、天神山石材は新田荘を中心に各地に供給されました。
- 凝灰岩石材の産地天神山全景
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(笠懸町教育委員会提供)
群馬県新田郡笠懸町の天神山には、露天掘りの石切り場跡が山頂一帯に23カ所も残されていて、山の西麓には石の加工場と思われる平場があり、五輪塔の未製品などが発見されています。 - 天神山の石切り場跡
石材の流通
天神山石材を用いた五輪塔は、群馬県東部を中心に、栃木県西部や埼玉県にも分布しています。比企郡でも川島町正福寺(しょうふくじ)で天神山産の五輪塔が二基発見されました。深谷市では岡部忠澄墓所のほかに後榛沢(うしろはんざわ)にもあり、熊谷市、深谷市、羽生市、北本市で見つかっています。最も遠くは横浜市磯子区の東漸寺(とうぜんじ)と同市西区御所山町にまで運ばれていました。
これらは古利根川と元荒川の流域に沿って分布していることが特徴的で、主に水運を利用して武蔵国に流通していったと考えられます。
- 天神山石材の分布図
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天神山産の凝灰岩は、原産地に近い群馬県の新田荘に集中した分布が見られますが、埼玉県内でも荒川の流域に多数持ち込まれていることがわかりました。
黄色の範囲は天神山石材の分布が濃密な地域・点線は新田荘の範囲です。