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嵐山町web博物誌・第2巻「プランタ」

第1節:年中行事と植物

1.正月

払い(すすはらい)

煤払い|写真  十二月、年の押し迫らないうちに家中を煤払いします。今でいう大掃除です。古くは十三日と日を定めていました。神棚も降ろし、屋根裏から縁の下まで竹箒(たけぼうき)できれいにします。竹箒は家の裏からとってきた二本の真竹を先端の葉を残して束ねて作りましたが、このような光景はすっかり見られなくなりました。

嵐山町博物誌・写真で綴る嵐山歳事記【祭りと年中行事編】

松(かどまつ)

門松|写真  二十八日か三十日には家中の神様に餅を供え、松や注連縄(しめなわ)・弊束(へいそく)などを飾りました。すべて年男の役目です。年男は一家の主が務めます。飾る日については、一夜飾りはよくない、クンチ(二十九日)はよくないと言われます。門松は母屋(おもや)のトボグチ(入口)の正面に対になるように立てます。三階松五階松榊(さかき)を添え、縄で松杭に結びつけました。太郎丸では神葬祭(しんそうさい)を行う家は三階松・竹・梅を、仏葬祭の家では三階松だけを門松にします。

嵐山町博物誌・写真で綴る嵐山歳事記【祭りと年中行事編】
マダケ(真竹)
マダケ|写真 本州以南の各地で栽培され、竹細工に用いられ生活に役立てられてきました。5〜6月に出る筍(たけのこ=竹の子)の皮は、物を包むために用いられました。筍は皮付きのまま焼いたり、煮物や吸い物の具にしたりして食べます。
アカマツ(赤松)
アカマツ|写真 名は同じマツ科のクロマツ(黒松)と比べて樹皮が赤いことに由来しています。クロマツの別名の雄松(おまつ)に対して雌松(めまつ)とも呼ばれます。
若い樹の枝は輪生(りんせい)するため、樹形は円錐になります。輪生する箇所を階と数えて、三階松や五階松と呼びます。
三階松・五階松の図
三階松・五階松|図
サカキ(榊)
サカキ|写真 神社に植えられることが多く、枝葉は神事に使われます。高さ10mほどになるツバキ科の常緑小高木です。6〜7月、白〜黄白色の花を葉の付け根に咲かせます。
ヒサカキ
ヒサカキ|写真 山地の林床に見られます。
嵐山町あたりでは、サカキの自生はほとんどないため、ヒサカキがサカキの代用として神事に用いられることもあります。
葉腋に1〜3個、柄の短い黄白色の花が咲き、鼻をつく強い臭いがあります。

の七草(ななくさ)

七草粥|写真  一月七日は七日正月とも七草ともいい、朝に七草粥(ななくさがゆ)をつくり、神様に供えるとともに自分たちもいただきます。これを食べると一年間無病息災(むびょうそくさい)で過ごせると言われます。大根・蕪(かぶ)・里芋・人参・小松菜などの野菜と七草とよばれる野草(薺〈なずな〉のこと)、あわせて七種類の実を入れました。それまで神様に供えていたものも入れました。

嵐山町博物誌・写真で綴る嵐山歳事記【祭りと年中行事編】

春の七草は、古歌に

「芹(せり) 薺(なずな) 御形(ごぎょう) はこべら 仏の座(ほとけのざ) 鈴菜(すずな) 清白(すずしろ) これぞ七草」

と詠まれています。
ここでは、一般的な春の七草を紹介します。

セリ(芹)
セリ|写真セリの花|写真
湿地に群れて生えている様子が競りあっている様に見えるため「セリ」と名前がつけられました。独特の香りがあり、やわらかい新芽を食べます。花が咲く頃(7〜8月)はアクが強くなり食用には向きません。
ナズナ(薺)
花を付けたナズナ|写真冬のナズナ|写真
古くから食用にされ、民間薬として利尿、止血などにも使われていました。道端や畑などでよく見られます。3月〜6月に白い小さな花を咲かせます。
三角形の実の形が三味線のバチの様に見えるためペンペングサとも呼ばれます。
ハハコグサ(母子草)……ごぎょう(御形)
ハハコグサ|写真 全体に白い綿毛に覆われています。4〜6月ごろ黄色い小さな花を茎の先端に多数つけます。道端や畑に普通に見られます。
ハコベ(繁縷)……はこべら(繁縷)
ハコベ|写真 道端や畑など、いたるところで見られます。全体にやわらかく、よく枝分かれして増えます。5枚の花びらが深く2つに裂けているため、まるで10枚あるように見えます。
コオニタビラコ(小鬼田平子)……ほとけのざ(仏の座)
コオニタビラコ|写真 キク科、水田に多く見られ、春には直径1cmほどの黄色い花を咲かせます。平らに葉を広げる様子が、仏の座(蓮台)を連想させることから「ほとけのざ」とも呼ばれます。春の七草のひとつで若葉を食用にします。
シソ科のホトケノザは、これとは全く別の種類です。
シソ科のホトケノザ
ホトケノザ|写真 シソ科オドリコソウ属の越年草。茎の上の方にある「柄のない葉の形」を「仏の座(蓮台)」に見立てたことから、この名がつきました。畑や道端にふつうに見られます。葉は対生(たいせい)します。
春の七草のホトケノザ(コオニタビラコ)とは別物で、食用ではありません。
カブ(蕪)……すずな(鈴菜)
カブ|写真 白く肥大した食用部分を鈴に見立てて鈴菜と呼ばれました。
野菜の中では比較的栄養価が高く必須アミノ酸のトリプトファンとリジンが含まれています。
収穫せずに春まで育てると、菜の花と同じような黄色の花を咲かせます。
ダイコン(大根)……すずしろ(清白)
ダイコン|写真 大根おろしには、消化酵素のジアスターゼが多く含まれているので、餅などの消化を助けます。
春に菜の花によく似た白い花を咲かせます。品種も多く、様々な料理に利用されます。

ノツクリ

削り花|写真モノツクリ|写真
 一月十四日、前日に山からとってきた木で削り花・アボヒボ・刀・粥(かゆ)かき棒・はらみ箸(はし)などを作りました。これをモノツクリといいますが、今では行う家も減りました。ハナ木とよばれる木(ニワトコ)を削って花のようにしたものが削り花です。〔中略〕竹を割って粟(あわ)・稗(ひえ)の穂に見立てたものがアボヒボで、畑に刺しました。こうして作物が豊かに実ることを祈ります。また、作物をまねたもののほかに、オッカドの木(ヌルデ)で刀や粥かき棒、はらみ箸を作ります。

嵐山町博物誌・写真で綴る嵐山歳事記【祭りと年中行事編】
ニワトコ……ハナ木
ニワトコ|写真ニワトコ|写真 木は軟らかく樹皮に厚いコルク質があります。枝を折ると内部に太く軟らかい白い髄があります。
冬芽は春いち早く伸び出します。
ヌルデ……オッカドの木
ヌルデ|写真 秋の紅葉が美しく、羽状複葉(うじょうふくよう)の軸には翼がついています。
幹を傷つけて出る白色の乳液を漆の様に物に塗るのでヌルデの名がつきました。
果実が熟すと、塩味がする白い粉でおおわれます。

正月の繭玉

十六繭玉|写真繭玉|写真
 小正月は別名、団子正月ともいいます。粳米(うるちまい)の粉で何種類かの繭玉団子を作って神様に供えました。たくさんの団子を飾りつけることで、作物が豊かに実り、繭が多く出荷できる様子を表したものです。
〔中略〕
 蚕神様には真ん中をくぼませた大きな繭玉を一六個、の根株から出た枝に刺したものをザシキの天井から吊るして供えました。ザシキの柱には堅木に小さな丸い繭玉をたくさん刺したものを大きく飾り付けます。オカマ様や恵比須・大黒様などにも小さな繭玉を三個ずつくらい堅木に刺して供えます。

小楢の木|写真 小楢の木。堅木とよばれる木の仲間。ザシキの柱に大きく飾る繭玉を刺す木。この他に堅木とよばれるのは、楢、ミズナラなど。

嵐山町博物誌・写真で綴る嵐山歳事記【祭りと年中行事編】
マグワ(真桑)……クワ(桑)栽培
マグワ|写真マグワの実|写真
蚕(カイコ)の食草として畑で栽培されています。畑では株元で刈りとられますが、刈りとらないと高さ10mにもなります。
果実は赤色から黒く熟してどどめと呼ばれ食べられます。
コナラ(小楢)
コナラ|写真コナラの実|写真
秋に黄色または紅色に紅葉し、ドングリ(実)をつけます。ドングリはタンニンが多く、そのままでは食べられません。
シイタケの人工栽培のほだ木になります。
第1節:年中行事と植物