嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」
第4章:河川・池沼と田んぼに見られる主な動物たち
第3節 田んぼ、池沼の動物
9.休耕田に多い動物たち
田んぼは稲など作物の栽培をやめて放置されると、もともと田んぼの土の中に混じっていた種子や飛んできた種子から、たくさんの植物が芽生えてきます。そのため、たった一年間手を加えないだけでも草のたくさん生えた田んぼになります。このような休耕田は、多くの動物にとってのすみかになります。特に、保水性の高い田んぼが休耕田になった場合は、トンボなどの水生昆虫や、バッタなど水際の草むらを好む昆虫がたくさんすむようになります。休耕田では人の食べ物がつくれない代わりに、生きものの生活に適した豊かな環境がつくりあげられているのです。
ハラビロトンボは腹が太く短い、ユーモラスな体型をしているトンボです。湿地に生息する種類ですが、ヤゴは乾燥に強く何十日でも干上がった場所で生きられます。このため、かなり乾燥した休耕田でも見かけることがあります。
休耕田にはわずか1年でアシやセイタカアワダチソウが密生します。特に年中じめじめした湿田ではアシ原が発達し、数年もたつと生きものたちの良いすみかになります。
ヤブジラミの花につくアカスジカメムシ。赤と黒のしま模様が美しい種類です。ニンジン・シシウド・ヤブジラミなどのセリ科植物だけに生活していて、畑などでもよく見かけます。
休耕田に生えてきたイネ科やマメ科、タデ科などといった仲間の植物には、これに密接な関わりをもつカメムシや甲虫、バッタ類といった昆虫類がたくさんみられるようになります。また、湿地の環境にすむものも、どこからともなく集まってきます。
こうした場所の生きものについては以前はあまり注目されず、最近までよく調べられていませんでした。そのため、ユミアシサシガメやミズアブの一種など、これまで未発見で名前のついていなかった種類が多く見つかっています。
谷津のおくで休耕や廃田となった田んぼは、湿地環境として生きものたちの重要な生息場所になっています。水辺にはガマやスゲなどが生え、乾燥気味の場所にはヤブジラミやハルジョオンなどが花を咲かせます。