嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」
第4章:河川・池沼と田んぼに見られる主な動物たち
第3節 田んぼ、池沼の動物
3.池沼の水面に見られる動物たち
夏に、池沼で縄張りをはる全身真っ赤なトンボをみたら、ショウジョウトンボと思ってまちがいありません。赤とんぼに似ていますが、そうではありません。赤くなるのは成熟したオスだけで、メスや未熟なオスは目立たないオレンジ色をしています。
嵐山町内の池沼分布図
町内には北部の七郷地区を中心にたくさんの池沼が...全文
谷津田にある池沼とは本来、人が水田に水をひくためにつくった用水池です。ですが、この池沼にはさまざまな生きものが見られ、かれらの生活の場にもなっています。ここでは池沼で見られる動物について、主なものを紹介します。
よく目にするトンボ類では、水面上を得意げに飛ぶヤンマの仲間、あるいは水面すれすれをせわしなく飛ぶイトトンボ類があげられます。嵐山町周辺は全国的にも池沼が多いことで知られており、トンボの種類もさぞかし多いことだろうと思うでしょうが、実際にはそうでもありません。それは、どの池沼も同じような環境であることや、トンボの産卵に必要な水草が生える場所が少ないことが原因のようです。大敵であるコイやオオクチバスが放たれたことも大きいでしょう。ですからトンボの種類が多い池沼は貴重な存在といえます。
また、早春の池沼にはアズマヒキガエルが産卵のため集まり、暖かくなるとオタマジャクシがたくさん泳ぐ姿をよく目にします。夜になると池沼から聞こえてくるウシガエルの「ブォー」という声は、いまではすっかりなじみの音となりました。
チョウトンボは水草の豊富な明るい場所の池沼に見られ、チョウのようにひらひらと飛び、オス同士は空中で激しく縄張りあらそいを演じます。最近はヒシなどの水草が浮かぶ池沼が減ってしまい、全国的に減少しています。嵐山町でも多くはありません。
アメリカ原産といわれるこの大型のカエルは、鳴き声がウシのようでウシガエルと名付けられました。別名「食用ガエル」...全文
産卵の時だけ池沼に集まるアズマヒキガエル。単に「ヒキガエル」とか、あるいは「ガマガエル」、「オヒキ」などとも...全文
ウチワヤンマの産卵です。オスが見張り、メスが水中の枯れ草に腹部を撃ちつけています。腹部の先が広がっていて...全文
アジアイトトンボは水辺の草むらでよく見かけるきゃしゃなトンボです。オスは早朝に相手を見つけ...全文
コシアキトンボは腹部の付け根が白く空いており、こう呼ばれます。嵐山町の池沼ではたいへんよく見られ...全文
単に「ヤンマ」とも呼ぶギンヤンマ、このトンボを見て幼い頃の郷愁を誘われる方も多いのではないでしょうか...全文
水面に浮かんで生活する昆虫たちは、池沼では目立つ存在です。アメンボやミズスマシの動きはとてもユニークで、見ていて飽きることはありません。この虫たちは水面に落ちてくるほかの動物をエサとしているため、豊かな自然環境が保たれている場所ではその数も多いようです。中にはオオアメンボのように限られた場所にしか見られないめずらしいものもいます。
嵐山町でのオオアメンボ確認地点
町内では鎌形八幡神社のほか、南部地域を中心に数ヶ所で確認されています。おもしろいのは嵐山渓谷の流れにも見られることで、よどみの部分が生息に適しているためと思われます。
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世界最大とも言われるオオアメンボ。この写真はほぼ実物大です。周囲を木々におおわれた池沼にのみ生息しますが、県内でも産地は限られているようです。
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スゲの花を食べるスゲハムシ。この仲間はネクイハムシ類といい...全文
池沼の水辺にはスゲが生えていることもあり、5月には棒状の白い花を咲かせます。この花が宝石のように輝いていたら、それはスゲハムシという小さな虫が群がっている姿です。この仲間は高い山の湿地などに多く、嵐山町辺りでは谷津田の奥にある池沼でわずかに見られるだけです。
埼玉県内のネクイハムシ類の分布図
埼玉県内でスゲハムシが見られるのは高い山の上がほとんどで、嵐山町の鎌形地区や平沢地区にある産地は丘陵地に残された貴重な存在です。
- 谷津田の奥にある池沼に、わずかですがスゲの群落が見られます。スゲハムシはこのスゲと共に細々と世代をつないでいます。
COLUMN
昆虫化石
オオハンミョウモドキは高地の湿原に生息する甲虫で、現在の埼玉県にはすでに生息していません。写真の標本は標高の高い場所で現在生息しているものですが、泥炭層より見つかる化石では体全体のうち胸部やハネなどが部分的に出土します。
化石というと、なんとなく恐竜など大きな生きものを想像してしまいがちですが、じつは昆虫なども化石として見つかることがあります。嵐山町に隣接する、ときがわ町の田黒地区では、今からおよそ4万年前の泥炭層より、100点以上もの昆虫化石が産出したことが報告されています。この中にはネクイハムシ類やオオハンミョウモドキなど、現在では標高の高い湿原に生息する仲間がいくつも確認されています。
これらの化石資料よりわかることは、当時このあたりは冷涼な気候で、アシ(ヨシ)やスゲの茂る低湿地があったのではないかということです。これは同じ場所の花粉化石分析でも証明されています。現在見られるスゲハムシなどは、この時代からの生き残りなのでしょう。