嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」
第4章:河川・池沼と田んぼに見られる主な動物たち
第3節 田んぼ、池沼の動物
蛍 ほたる
前川で見られるゲンジボタルの群飛。ゆっくりと飛び、緑色の淡い光が尾をひきます。大きな光を出すのが特徴で、流れのある場所のまわりにだけ見られます。 拡大画像
(写真提供:高橋秀志氏)
岸辺のコケにとまって休むゲンジボタルの成虫...全文
「ほ、ほ、ほーたるこい、こっちのみーずはあーまいぞ・・・」と童謡にも歌われているホタル。昔から、もっとも人に親しまれてきた生きものです。「蛍狩り」といって、竹ぼうきやうちわでこのホタルをつかまえる遊びもあり、中には虫かごに入れて持ってかえる人もありました。ですが、ホタルの成虫は短い寿命を終え、すぐに死んでしまいます。そのためか、毎年ホタルが出るのを、まるで桜の花や紅葉と同じように、季節の風物詩として楽しんだのです。
最近では、人の生活習慣の変化により、ホタルのすむ場所もだいぶ減ってしまいました。それでも嵐山町周辺では、けっして多くはありませんが、まだあちこちに見られます。6月の晴れた日、あたりが暗くなってから谷津田の奥に出かけてみると、そこには幻想的なホタルの飛ぶ姿を見ることができます。
- ゲンジボタルが生活しているのは、谷津田の奥にある細い流れです。水が澄み、カワニナがたくさん見られ、周囲に人家や街灯がない場所ですが、現在ではこうした環境はほとんど残されていません。
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腹端部が光るのは、ルシフェリンという発光物質の酵素反応によるものです。「蛍光灯」とは、このホタルの光をまねたものです。ですがホタルの光は電気や火の光とはまったく別のもので、熱や二酸化炭素をまったく出しません。
(写真提供:杉田正之氏)
ヘイケボタル
ヘイケボタルの成虫は、体長約7〜10ミリメートル。ゲンジよりやや遅く、7月のはじめから9月中旬まで見ることができます。幼虫はカワニナやタニシの小さなものも食べますが、モノアラガイ類などのより小さい種を好んで食べるようです。流水にも見られますが、どちらかというと池沼など止水域に多く見られます。
埼玉県内のゲンジボタル・ヘイケボタル分布
拡大図及び解説
ホタルというと、嵐山町でもそうですが、ふつうはゲンジボタルのことを指す名前のようです。ゲンジボタルと共に有名なヘイケボタルは、嵐山町辺りでは「ウジボタル」と呼ばれています。この2種類はいずれも幼虫が水の中ですごしますが、ヘイケボタルはゲンジの好む流水以外に、流れのない池沼や湿地、水田などにもすんでいます。
ホタルは、じつはこの2種類だけではありません。嵐山町ではこのほかに4種類、合計6種類のホタルが分布しています。この4種類はいずれも幼虫が陸上生活をし、水辺でなくとも見ることができます。そして、発光する部分もあまり発達していません。ただし、10月ころに「ウジボタルが光っていた」という話は、実際にはクロマドボタルの幼虫が草の上で光っているのを見た場合が多いようです。
昔はよく、近所の流れに竹ぼうきをもって、蛍狩りに出かけたということです。ホタルはゆっくり飛び、すぐに枝葉に止まります。竹ぼうきやうちわでそっとたたくと、これにつかまるため、かんたんにつかまえることができるのです。また蛍狩りのときは「ヘビに気をつけろ」と言ったそうですが、これはマムシなどが夜の水辺に多いことからでしょう。なお、今はホタルも数が少ないので、自然保護のため個人で持ちかえるようなことはつつしみましょう。
ゲンジボタルの好む生息環境
湧水や山間部の清流など、水のきれいな流れがあり、岸辺に人工的な護岸がされておらず、さらに周囲に人家や街灯などホタルの発光にじゃまな光がない場所です。エサとなるカワニナ等の個体数が多いことも重要です。
ヘイケボタルの好む生息環境
ゆるやかな流れや池沼、田んぼなどの止水域で、周囲に人家や街灯などホタルの発光にじゃまな光がない場所です。田んぼの場合は、昔ながらの冬でも水がある場所のほうが良いようです。エサの貝類も多いことが必要です。
オバボタルは見た目がゲンジやヘイケなどのホタルによく似て...全文
まっ黒で、胸の前縁に小さな窓があるクロマドボタル。幼虫は陸上性...全文
ムネクリイロボタルは胸部に黒い部分がなく、触角には枝状の突起が...全文
肩の部分に小さな赤い斑紋があるのが特徴のカタモンミナミボタル...全文
COLUMN
ゲンジボタルの方言
ゲンジボタルには「集団明滅」という、多くの個体がいっせいにタイミングを合わせて発光する現象が見られます。この光る間かくには地域で差が認められ“ホタルの方言”として知られています。日本列島全体で静岡県あたりから関東までの地域を境に、その東側では4秒間隔、西側では2秒間隔で発光するため、嵐山町周辺では“4秒間隔”で光ることになります。また、最近の研究では、この中間地点に3秒間隔で光るゲンジボタルがいることもわかっています。
ホタルが減ってしまったのを惜しんでか、最近では各地で蛍祭りやホタルの里づくりなどが盛んですが、こうした中には関西産のホタルを関東で放してしまうこともあるようです。こうした放虫行為は、もし定着した場合に、その地域にもとからいたホタルが持つ性質が失われる危険性があり、大変な問題になっています。もしこれからホタルの里を作りたいと思うのならば、その地域や周辺にもとからいる個体を増殖し、できれば自然に増えるくらいの環境を整えてやることが必要です。