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嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」

第4章:河川・池沼と田んぼに見られる主な動物たち

第3節 田んぼ、池沼の動物

11.田んぼの草取り虫カブトエビ

捕まえたカブトエビの写真  田んぼに水が入り田植えが終わるころになると、嵐山町内の各地の田んぼではカブトエビという、ふしぎな生きものが見られるようになります。
 田んぼの水には栄養分が多く含まれ、水がたまると1週間くらいでミジンコなどの動物プランクトンが発生します。このとき、プランクトンなどをエサとするホウネンエビやカブトエビが、ほんのわずかな期間だけ発生します。カブトエビは、多い場所では一枚の田んぼに数百匹が発生し、水は赤茶色ににごります。たえず動きまわっているため、日光が水底までとどきにくくなり、雑草の芽が出にくくなると言われ、カブトエビのことを「田んぼの草取り虫」などと呼ぶこともあります。
 カブトエビやホウネンエビは毎年同じ場所に発生しますが、圃場整備で他の場所から土を持ってくると、それまでいなかった場所にとつぜん発生することがあります。卵は乾燥にとても強く、また乾燥しないと発生しないとも言われています。

田んぼの写真
カブトエビがいる田んぼは、水が赤茶色ににごっています。となりどうしの田んぼでも片方だけで発生していると、そのちがいは一目でわかります。

カブトエビの写真
拡大画像
カブトエビは化石として見つかるものが、現在のものとほとんど姿を変えずにいることから、「生きた化石」とも呼ばれます。エビやカニと同じ甲殻類という仲間です。海にはカブトガニという大きな種がいますが、カブトエビは大きくても3センチメートルほどにしかなりません。

 
 

カブトエビを捕る子供たちの写真
学校帰りにカブトエビを捕まえる子供たち。身近な生きものは子供たちの格好の遊び相手であり、ふれあうことで命や自然の大切さを教えてくれます。

 稲作(水稲栽培)は、池沼などのかんがい用水から水を運び、あぜでかこった田んぼに水をためて稲を栽培する、アジア地域独特の農業です。昔の田んぼにはたくさんの生きものが見られたといいますが、これは農家の人たちがあぜや用水を管理することで保たれてきた生きものです。ホウネンエビという生きものは、漢字で書くと「豊年海老」で、まさに稲作との関わりをそのまま名前にしたものです。イナゴも「稲子」ですし、他にも同じようなものはいくつも知られています。田んぼの生きものが、それだけ人との関わりを持っていた証拠でしょう。

カブトエビの分布(2001年)

埼玉県分布地図嵐山町分布地図

アメリカカブトエビとアジアカブトエビの違い

アジアカブトエビの写真アジアカブトエビのメス(左)とオス(右)...全文  カブトエビといっても、じつは1種類ではありません。埼玉県内ではアジアカブトエビとアメリカカブトエビの2種類が分布しており、嵐山町では両種とも見つかっています。両種を区別するのは専門家でないと正確にはわかりません。また日本国内で発生しているアメリカカブトエビはすべてメスで、同じ個体でオスの性質も持っています。アジアカブトエビの雌雄は別で、メスのほうがやや大きくなります。

 

田んぼのホウネンエビの写真 ホウネンエビ(拡大)の写真
ホウネンエビは背中にカラを持たない無甲目、カブトエビは体を被うカラを持つ背甲目で、いずれも原始的な生きものです。ホウネンエビはおなかに卵をかかえたまま、あお向けで泳ぎます。
ホウネンエビはカブトエビよりも早くふ化して、ミジンコなどを捕食して成長します。その後、カブトエビがふ化すると、ホウネンエビはそのエサとなってしまいます。たくさん発生しますが、カブトエビのように水をにごすことはあまりなく、遠くから見ると発生している様子がよくわかりません。

田んぼの中で死滅したカブトエビの写真
農薬で死滅したカブトエビ。カブトエビは、除草剤を使わなければ約一ヵ月くらいは生きています。ところが薬をまいたとたん、その田んぼにいたカブトエビはほとんど死に絶えてしまいます。