嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」
第4章:河川・池沼と田んぼに見られる主な動物たち
第3節 田んぼ、池沼の動物
7.田んぼのまわりに見られる動物たち
トウキョウダルマガエルは体長が5〜7センチメートルくらいでメスのほうがやや大きくなります。体色は緑色や褐色の地色をしています。写真は緑色の個体。
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水田のカエルというと、このトウキョウダルマガエルを指す場合が多いでしょう。昔はたくさんいましたが、最近は環境の変化に伴い各地で減少しています。
以前はトノサマガエルと呼んでいましたが、関東地方にいる種は正しくはトウキョウダルマガエルであることがわかりました。トノサマガエルは別の種で、西日本に見られるようです。
アマガエルは体色を変えることができるため、地色が緑色から灰色になったりします...全文
カエルは水辺で昆虫を主に食べて暮らしていますが、稲の害虫も食べるため、人にとっては有益な動物です。昔の水田地帯には、カエルがたくさん見られました。稲の育つ水辺や水路の近くではトウキョウダルマガエルが飛びはねたり、あぜ道や小さな流れの脇からはアカガエルやツチガエルが「ポチャン」と飛び込むのが見られました。まわりの草地にはアマガエルも多く、草の葉を飛びつたいながら逃げだしました。ところが、最近はカエルがほとんどいなくなりました。お米をたくさん作る必要から農薬を水田にまくようになり、そこに生息する昆虫類は減ってしまい、昆虫をエサとするカエルの数も減ってしまったのです。
カエルはなぜ、水辺を好んで生活するのでしょうか。それはカエルの体に秘密があります。体がいつも湿っているのは、肺呼吸以外に「皮膚呼吸」もしているからです。表面が乾燥してしまうと皮膚呼吸ができなくなります。そのため、水辺から離れることができないのです。
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シュレーゲルアオガエルは谷津田を代表するカエルです。土の中にひそんで鳴くため、鳴き声は聞こえても...全文
シュレーゲルアオガエルの卵塊。白い泡状で、たいていは田んぼの土中に産み付けます。あぜ道の崩れたところや...全文
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アカガエル類2種の記録地
嵐山町ではヤマアカガエルとニホンアカガエルを見ることができます。地形的にちょうど...全文 -
アカガエル類2種の区別点
両種とも形がよく似ていますが、背側線が鼓膜の後ろで背中の中心へ曲がっているのがヤマアカガエル、まっすぐで、鼓膜の後ろでもほとんど曲がらないのがニホンアカガエルです。また、ニホンアカガエルでは背側線が地色より淡い色になっていることが多いようです。
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ニホンアカガエルは平地から台地・丘陵地にかけて生息し、田んぼのまわりの草むらや休耕田、湿地などで...全文
ヤマアカガエルは山地性の種でふだんは林の林床などで生活しています。早春の2月から3月ころに産卵...全文
カエルの多い環境
カエルの多い環境は、昔の田んぼを参考にするとわかってきます。
- 田んぼの水が汚れていないこと。
- 水路はコンクリートでなく、田んぼと同じ土の水路であること。
- あぜ道や水路脇には草が生え、カエルの逃げ隠れる場所があること。
- カエルの生息場所として大切な、池沼や休耕田の湿地があること。
- 周囲が雑木林に囲まれ、1年を通して「水」が絶えないこと。
一時的に水辺があっても、やがて乾燥してしまうような場所ではカエルは生きていくことはできません。
ヤマカガシは近年では毒蛇として知られるようになりました。深くかみつかれると...全文
田んぼのまわりにはヤマカガシがよく現れます。春から夏に多く見られ、田んぼ以外にも河原などでふつうに見かける、なじみ深いヘビです。カエル類を好んで食べますが、時には水中に頭を沈め、オタマジャクシなどを襲って食べることもあります。マムシと共に強い毒を持つヘビですが、最近になって毒蛇とわかったこともあり、そのためあまり知られていないようです。またマムシも、田んぼや日当たりのよい林道、草地などで出会うことがあります。いずれのヘビもあやまってかまれないよう、気をつけなければいけません。
毒蛇の特徴
頭が三角形をし、体がやや太く、長さが比較的短いことから全体にずんぐりしているのがマムシです。ヤマカガシは赤い斑紋が首の近くに多く見られ、頭のすぐ後ろには黄色い部分があるのが特徴です。
- マムシは日向ぼっこをしているときはじっとしていますが、人の気配に気がつくと、ふつうは逃げ出します。また、マムシが活動する夜間の田んぼでは特によく見かけます。毒蛇の代表的なものとしてよく知られ、体の表面にある銭形をした斑紋が特徴ですが、アオダイショウの幼蛇(ようだ)もこれに似ておりよく混同されます。
ツバメが田んぼの上を低く飛んでいます。田んぼにいる昆虫などを、飛びながら捕らえているようです。最近では田んぼに生きものが減り、こうした光景もあまり見られなくなりました。
田んぼには鳥たちもやってきます。サギ類もよく見かけますが、特徴的なのは繁殖期のアマサギです。頭から背にかけての橙黄色が目立ちます。また、ツバメも田んぼでよく見かける鳥です。
他にもドジョウやメダカ、ゲンゴロウ類など、田んぼならではの生きものが多く見られます。
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メダカもごく普通に見られた魚でしたが、護岸化により産卵場となる水際の植生が少なくなり、水面付近を群泳する姿も少なくなりました。嵐山町では今でもいくつかの場所で見られます。
ドジョウはかつてはどこでも見られましたが、用水の護岸化により田んぼと用水の行き来ができなくなり、産卵場が少なくなったっため減少しています。
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アマサギはツバメと同じように、春になると南の国から渡来し日本で繁殖して、秋にはふたたび南の国へ帰る渡り鳥です。繁殖期には頭から首・背が橙黄色に...全文
田んぼに水を張る頃からよく見られた水生昆虫は、めっきりその数を減らしていますが、ミズカマキリはまだ各所で見ることができます。同じ水生カメムシでも...全文
用水路の水底をざるですくってみたところ、ドジョウやタナゴ、ザリガニ、タニシなど、いろいろな動物が採れました。昔は大水が出ると、道脇の水路などでドジョウなどをたくさん採って食べたそうです。
オオシオカラトンボは、シオカラトンボを頑丈にした感じのトンボです。成熟したオスは、見晴らしの良い場所にとまり、縄張り内に他のオスが侵入してこないか、あるいはメスがやってこないかどうか見張ります。夕方には縄張りを去って林などで眠りますが、翌日には同じ場所で縄張りをはります。
田んぼの周辺にある水路には、オニヤンマやミヤマアカネなどが生息し、周辺の林には田んぼから羽化したオオシオカラトンボやカトリヤンマなどがハネを休めています。田んぼは、用水路と周囲の林とがひとまとまりで存在することが、多様なトンボ相を育むうえで欠かせません。しかも、それらがトンボにとって良い状態で存在しなくてはいけません。最近は周囲の林が管理されずにシノ竹が密生したり、水路がコンクリート化されたりしていますが、それらはトンボにとって生活しにくい環境です。そのため、各地の田んぼからトンボたちが姿を消しつつあるのです。
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オオシオカラトンボの産卵。交尾を済ませると、メスは尾の先で水面を打ち付けて産卵し、オスはそのまわりを...全文
シオカラトンボはもっともよく見られるトンボです。メスと成熟していないオスは体の色が麦わら色をしているため...全文
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オニヤンマの産卵はたいへん迫力があります。メスはするどくとがった産卵管を持ち、体を垂直にした状態で...全文
オニヤンマは日本最大のトンボで、"鬼のように大きい"ことからその名があります。昔は「おおやまとんぼ」や...全文
こうした影響をうけるのはトンボだけではありません。田んぼのまわりには、小さな昆虫類やザリガニ、タニシなど、たくさんの生きものたちが生活していますが、ほとんど全ての種がこうしたことの影響を受け、田んぼから生きものたちがいなくなりつつあるのです。現在、田んぼの存在価値について、生きものの生活の場としても見直されており、今後は、生きものたちと共存できる田んぼの整備が求められています。
水面...紫色をした小さなゴミみたいなものが...ムラサキトビムシという昆虫...全文
田んぼの水の中をのぞくと、緑色をしたチスイビルがいることがあります...全文
アメリカザリガニはあぜにあなを掘ったりするやっかいものですが...全文
ヒメタニシは田んぼによく見ることができる小型のタニシです...全文
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通称「ヘッピリムシ」と呼ばれるミイデラゴミムシ。幼虫はケラの卵を食べる...全文
クマスズムシはどことなくスズムシに似ている、少し小さめのコオロギです...全文
キリウジガガンボは幼虫が作物の根を食べるため、かつて農業害虫とされた...全文