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嵐山町web博物誌・第5巻「嵐山町の中世」

COLUMN

6.コラム:理由(わけ)あって「埼玉」

最古、最大、最多。埼玉県は、さながら板碑の博物館です。でも、これにはわけがあります。謎を解くキーワードは〈緑泥片岩〉。

 現存する最も古い板碑は埼玉県熊谷市にあります。その次に古いのも熊谷市です。板碑の原点がこの地域にあったことは、まず、まちがいないでしょう。
 ところで、板碑の保有数は、埼玉県が全国一です。日本最大の板碑は、秩父郡長瀞町に立っています。このように板碑の日本一が集中しているのは、ただ埼玉が板碑発祥の地だからというだけではありません。
 ほとんどの板碑は「緑泥片岩(りょくでいへんがん)」という青緑色の石で作られています。その色とともに、薄い板状に裂ける性質が大きな特徴です。板碑に加工するには最適の石材といえます。この緑泥片岩の国内有数の産出地が埼玉の長瀞町周辺なのです。

最古

日本最古 嘉禄三年(1227年)

嘉禄三年銘板碑/埼玉県指定文化財
嘉禄三年銘板碑|写真(熊谷市教育委員会提供)
熊谷市大沼公園にあります。肉彫で阿弥陀三尊像を描いた画像板碑です。
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嵐山最古 文応元年(1260年)

阿弥陀三尊種子板碑/町指定文化財
阿弥陀三尊種子板碑|写真将軍沢明光寺境内にある板碑です。ダイナミックな書体の阿弥陀三尊種子です。
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最大

日本最大 5m37cm

釈迦一尊種子板碑/国指定史跡
釈迦一尊種子板碑|写真秩父郡長瀞町野上にあります。地上の高さ5m37cm、見る者を圧倒する大きさです。すぐ近くで緑泥片岩が採掘できる埼玉ならではの板碑といえましょう。「応安二(1369)年」と記されています。

嵐山最大 2m40cm

大日題目複合板碑/町指定文化財
大日題目複合板碑|写真ちなみに嵐山最大は、吉田日影堂にあります。高さ2m40cmを測ります。1340(暦応3)年に作られました。
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緑泥片岩産出地と武蔵型板碑

 緑泥片岩は特殊な環境下で次第に変化してできあがった岩石で、産出地が限られますが、中でも最大の産地が、長瀞町から小川町を中心とする荒川上流域の沿岸一帯です。秩父青石、下里石などとも呼ばれ、最近まで採掘されていました。嵐山町でも千手堂付近の槻川沿岸でみられます。
 この緑泥片岩を用い、ほぼ定型化した美しく整った形の板碑を「武蔵型」と分類しています。関東、甲信越から北は福島にまでまたがる広い範囲に分布します。

原産地マップ
原産地マップ埼玉県内には長瀞町と小川町の下里に緑泥片岩の産出地があります。切り出された石は荒川や都幾川の水運を利用して各地に送られたと考えられます。
原産地石切場跡/長瀞町
原産地石切場跡|写真山の斜面を露天掘りした石切場の跡はテラス状に痕跡があり、小祠が祭られています。