嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」
第5章:人家周辺の主な動物たち
第1節:庭の生きものの世界
6.庭によく巣をつくるハチ、アリ
家の周りによく巣を作るスズメバチやアシナガバチは、人を刺すのでたいへん恐れられています。ですが、この恐怖感はすべてのハチに対する大きなごかいを生じているようです。ハチは一般に、親が一匹だけで子育てをしますが、スズメバチの仲間とアリ類、ミツバチ類が集団生活する仕組みを進化させ、これと同時に巣を守るための防衛、攻撃本能を発達させました。なので、実際にはほとんどのハチはつかんだりしないかぎり刺すことはないのです。人を刺す種類でも、巣に近づいたり手ではらったりしなければ、むやみに刺すことはありません。また、ハチの針は産卵管の変化したものなので、メスだけにあります。したがってオスはぜったいに刺しません。
大きな眼は「複眼」と呼ばれ、小さな眼の集合体で、実際にものを見るのに使います。額の部分にあるのは「単眼」で、明るさの察知など複眼の補助機能を持つと言われています。力強い大アゴも迫力満点。
人家の屋根下に作られたコガタスズメバチの巣。盛んに働きバチが出入りしています。こうした場所以外にも、生垣の中や納屋の天井など、雨のあたらない場所によく巣を作るようです。
オオスズメバチがキイロスズメバチの巣を襲っています。幼虫や死んだハチを持ち帰り、自分たちの幼虫のエサにするためです。巣の脇に大きなあなをあけ、次から次へと幼虫を連れ去ります。
スズメバチ類は種類によって、幼虫に与えるために狩る獲物に好みがあるようです。オオスズメバチは大型の甲虫類、ヒメスズメバチはアシナガバチ類の巣を襲い、モンスズメバチはセミの仲間を、コガタスズメバチとキイロスズメバチは小型の昆虫やクモを主に狩ります。庭などに作られた巣は、秋が深まるにつれて大きく成長しますが、夏にはあふれていた樹液もすでに止まり、エサとする獲物の数にも限界があります。すると力の強いオオスズメバチなどは、小型のハチの巣を襲うこともあります。強いものだけが生き残る、すさまじい世界です。
オオスズメバチに襲われた巣の下には、死んだハチの死骸がたくさん落ちています。お互いに多数の犠牲を出しながら、強いものが生き残るのです。
キイロスズメバチの巣があった人家の納屋。攻防中は近寄ると、勢いづいたハチが襲ってきました。近寄らないほうが身のためです。
COLUMN
スズメバチに刺されたら
スズメバチやアシナガバチにちょっかいを出して刺されると、人によっては死亡することもあります。これはハチの毒性の強弱によるものではなく、「アナフィラキシー・ショック」という、アレルギー反応の一種が原因となります。刺された後に血圧低下や頭痛のような症状が現れたら、一刻を争って病院で手当てをしなければなりません。ですが、すべての人に起こるわけではなく、何度刺されても平気な人がほとんどなので、むやみに恐れる必要もありません。ちなみに刺されたときの塗り薬ですが、アンモニアは効果が無く、抗ヒスタミン剤の軟膏ならある程度効果があります。
蟻 あり
クロヤマアリは木に登ってアブラムシの出す甘い汁(甘露)をなめることもあります...全文
庭の地面をよく見ると、一生懸命はたらくアリたちが目につきます。働き者の例えにも用いられるアリは、いつ見ても、常にエサを求めて歩きまわっています。庭石などのまわりに、細かいつぶ状の土が積み上がっていたら、その石下にはアリの巣があるはずです。そっと石をおこしてみると、たくさんの働きアリたちが幼虫やまゆの世話をしているのが見られます。
アリの多くの種は、林の落ち葉の下などで暮らしています。庭に見られるアリはごく限られた種だけで、嵐山町ではクロオオアリやクロヤマアリ、トビイロケアリ、アミメアリなどをよく見かけます。またアリは家の中に入り込み、お菓子のこぼれたものや砂糖の保管してあるところなどにたくさん寄ってくるため、こうした場合はたいてい嫌われてしまいます。殺虫剤などで殺してしまう人も多いようですが、アリはどこにでもいる昆虫ですから、すぐによそからまたやってきます。それにアリは、自然界の中でそうじ屋として大きな役割を果たしている生きものです。できれば、アリが家の中に入り込まないよう工夫し、やたらに殺さないことをおすすめします。