嵐山町web博物誌・第4巻「嵐山町の原始・古代」
1.日本列島の誕生
気候の温暖化
およそ1万2000年前には氷河期が終わり、地球は急速に温暖化が進みました。北極、南極や山岳の氷河の大量の氷が解け出して海面は上昇し、日本は大陸から分離して列島となりました。それまでは、時々海水が混ざる湖だった日本海には、南から暖かい黒潮が流れ込むようになります。この暖流が、列島に多量の雨をもたらすこととなりました。また、気候の変化にまるで呼応するかのように、火山活動がみるみるおさまりました。温暖で、豊かな森林に覆われた日本列島の原形ができあがりつつありました。
環境の変化は、人々の生活をも大きく変えることとなりました。大陸から切り離され、列島に取り残されたかたちとなった日本人の遥かな祖先たちは、気候がよい方向に転じたことも幸いして、新しい世界にすぐに適応しただけでなく、生活の道具を工夫し、暮らしかたを積極的に変えていきました。こうして、日本固有の文化を有する縄文時代は始まったのです。
ドングリの森
気候の温暖化は、日本に素晴らしい変化をもたらしました。ドングリの森の誕生です。ナラ、クリ、トチ、クルミなどは、落葉広葉樹といいます。夏は青々と茂り、秋に実をつけて紅葉し、冬は葉を落として春に再び芽吹く——四季の移ろいを鮮やかに映し出す木々です。降り積もる落ち葉は、腐葉土となって大地を肥やし、多種多様な植物が繁茂します。森は様々な生き物を呼び寄せ、育んでいきました。極寒の環境にのみ適応した大型の獣は絶滅しましたが、代わってシカやイノシシなどの動物、鳥、昆虫などで満ち溢れる世界が生まれたのです。そして人間も、この森の恵みによって繁栄していくことになります。
- 落葉広葉樹林の森(長野県鬼無里村)
- ブナやミズナラを主体とする、原始の森の姿をとどめる景観です。
- 6000〜5000年前の海岸線と植生(鈴木公雄編1988より作成)
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日本列島は、海が内陸に深く入り込み陸が小さくなっていました。陸の植生は東日本は落葉広葉樹林、西日本は常緑広葉樹林が主体を占めていました。 - 有孔虫(ゆうこうちゅう)の化石
- 有孔虫の生息条件から古気候を、殻の酸素同位体を利用して地層の年代測定を行っています。これは鹿児島県沖永良部島の海岸にある天然記念物の有孔虫化石です。
- 常緑広葉樹林の森
- スダジイ、カシ、ツバキが主体の森です。1年中緑の葉を付けています。現在では温暖化気候を示す常緑広葉樹の森は少なくなりましたが、嵐山町大字遠山には貴重なスダジイ林が残っています。