嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」
第3章:草むらの主な動物たち
第1節:山すそや路ぼうの草むら
1.ススキ原の動物
ツチイナゴはバッタの仲間です。多くのバッタは夏から秋にかけて成虫になります。でも、このツチイナゴは秋に成虫になり、成虫のまま冬を越して翌年の初夏まで見られます。
銀色に輝く穂が夕日に映える秋のススキの原っぱ――ススキはどことなく郷愁をさそう季節感のある植物です。大型のイネ科植物であるススキは、身近な草原にふつうに生えますし、今でも十五夜にはなくてはならないものです。動物のなかにも、ススキの繁る草原を好む種類が少なくありません。特に、葉を食べるバッタの仲間や、汁を吸うカメムシやウンカの仲間には、ススキの原っぱを生活の場所としている種類がいます。
さて、どんな動物たちがススキの原っぱで暮らしているのでしょうか。そっと観察してみましょう。
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ツチイナゴの成虫。ススキの葉につかまっているのを良く見かけます。 - 幼虫も同様の場所に生息しています。
- オナガササキリは、ススキの原っぱが大好きです...全文
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秋になると穂がゆれる、なつかしい風景。十五夜のためにススキの穂を取りにいったこともあったでしょう。ススキ原は身近な場所にある草地でした。最近では帰化植物のセイタカアワダチソウやオオブタクサなどがはびこり、こうしたススキ原を見る機会も少なくなりました。
トリノフンダマシ
トリノフンダマシは体長1センチメートルほどの丸々としたかわいいクモです。ススキの葉でじっとしていて、昼間はほとんど動きません。この仲間は大きな網が張れる場所にしかすめないので数が少なく、めずらしい種類ばかりのようです。
トリノフンダマシ類3種の確認地点
ススキ原で変なものを見つけました。その姿はどう見ても鳥のフン、とても生きものには見えません。ですが、つついてみると動き出します。これはトリノフンダマシという、ススキ原にすむめずらしいクモの仲間です。身を守るためにこんな姿をしているのでしょうが、たしかにこれなら外敵から襲われる心配もなさそうです。嵐山町にはこの仲間が3種類確認されていますが、実はいずれの種類も県内ではあまり見ることのできないクモです。
カバキコマチグモ
ススキの葉を巻いた巣を広げたりして、中にいる親グモに噛まれると、激痛を伴って赤く腫れたりします。ですがさほど強い毒ではなく、命に関わることはありません。
COLUMN
カバキコマチグモの天敵
ススキなどの葉をちまきのように巻いて育児室をつくり、その中にこもって子育てをするカバキコマチグモには、実は恐ろしい敵がいます。その部屋をこじ開けて侵入し、針でさして麻酔し、産卵するベッコウバチです。卵はクモの腹部の背側につけます。クモは麻酔から覚めてもとの生活に戻りますが、卵を取ることはできず、ふ化したハチの幼虫はその位置でクモの体液を吸収して成長します。やがてクモは死に、ハチはまゆを作ってサナギとなります。そして羽化すると部屋に丸いあなを開けて脱出します。ハチは産卵前のクモのメスのみをねらい、このクモは一度麻酔されると目覚めても産卵しなくなります。
日本にはヤマトツツベッコウとイワタツツベッコウという2種類のベッコウバチがいて、いずれも頭部が半球のような特徴のある形をしています。
クモの育児室内のハチのまゆ(左)と部屋の壁からハチが脱出したあな(右)。