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嵐山町web博物誌・第7巻【祭りと年中行事編】

第3節:豊作を願う 〜小正月〜

繭玉の床まで枝垂る倉あかり 奥平正子

 正月はまだまだ続きます。一月十三日。モノツクリが始まります。小正月の準備です。
 臼、杵、刀などの道具類、アワやヒエの穂を、木を削って作ります。団子を桑の木に刺すと、繭玉飾りの出来上がりです。家族をお守りくださる大勢の神様にお供えし、削り花を飾ったら、家のうちそとが急に華やかになりました。
 小正月は「予祝」の行事です。豊作のさまを表し、お願いすると、その秋には本当のことになるというのです。きっと、神様もきれいな飾り物がうれしくて、「早く秋になって、みんなの喜ぶ顔が見たい」と思うのでしょう。それで、豊作になるように、力を貸してくれるのにちがいありません。

1.モノツクリ|家の行事,稲作の行事,畑作の行事

ハナをかく|写真
庭先に広げた筵(むしろ)の上で削り花を作る吉田の大久保義勝さん。この作業は「ハナをかく」といいます。

ハナをかく手元|写真 ハナをかく手元。ハナカキという特別な小刀で木の肌を薄くそぐと、自然に縮れ、花のようになります。

 一月十四日、前日に山からとってきた木で削り花・アボヒボ・刀・粥(かゆ)かき棒・はらみ箸(はし)などを作りました。これをモノツクリといいますが、今では行う家も減りました。ハナ木とよばれる木(ニワトコ)を削って花のようにしたものが削り花です。十六階のハナをつけたものは年神様に供えます。このほか、氏神様や大神宮様、家の門口などには三階のハナを供えます。竹を割って粟(あわ)・稗(ひえ)の穂に見立てたものがアボヒボで、畑に刺しました。こうして作物が豊かに実ることを祈ります。また、作物をまねたもののほかに、オッカドの木(ヌルデ)で刀や粥かき棒、はらみ箸を作ります。

モノツクリに使う道具|写真 モノツクリに使う道具。左から、ハナカキの小刀・鉈(なた)。ハナカキの小刀はこのことにしか使わないもので、鍛冶屋に特別に作ってもらわなければなりませんでした。

オッカドの木を形取る|写真 オッカドの木を形取りながら、粥かき棒やはらみ箸を作り上げます。

モノツクリ|写真
杉山、金子長吉さんが昭和51年に作ったモノツクリ。(資料提供:県立嵐山史跡の博物館)ハナ、アボ・ヒボ、刀(大小)、杵、男根、粥かき棒、箸などがあります。

削り花|写真 門口(かどくち)の両側には、太くて形の良い三階の削り花を対で挿します。写真は吉田の大久保義勝さんの家。

アボヒボ|写真 アボヒボは粟の穂と稗の穂に見立てたもの。粟穂は削り花が付いているもので、稗穂にはありません。アボヒボを麦穂と稲穂に見立てた家もありました。写真は吉田の大久保義勝さんの家のもの。

十六バナ|写真
いちばん大きな削り花である十六バナは年神様に供えます。きれいにハナを作るには300回かくといいます。写真は吉田の大久保義勝さんの家。

モノツクリの木

【小正月の風景】

森林|写真  ニワトコやヌルデは、嵐山町に限らず広い地域でモノツクリの材料としてよく使われます。なぜ、これらの木が使われるのでしょうか。他に使い道のない木だから、または、伐ってもすぐ生えてくるからという説明もありますが、『万葉集』の編まれたころ中国より伝わった考えにより、霊力のある木とされた桃の木の代用として使われていたのでは、という説もあります。

ヌルデを伐る|写真 「オッカドの木」と呼ばれるヌルデ。モノツクリに使うために山から伐ってきます。奥多摩地方ではカツノキとも。

ニワトコ|写真 「ハナ木」と呼ばれるニワトコ。畑の脇に育てておくという人もいます。特に植えようとしなくても大きい株があると生えてきます。

材料の木とハナカキの小刀|写真 材料の木とハナカキの小刀。