嵐山町web博物誌・第1巻「嵐山町の動物」
第6章:野生動物の保護
第2節:身近な自然の保護とは
2.自然環境の保全
人類は大昔から幸せな生活を願い、より豊かで便利な生活を追い求めてきました。そして自分たちの生活の便利さを得るために、まわりの自然環境をこわし、多くの動植物を亡ぼしてきました。そのために豊かだった自然環境は次第に貧弱なものに変わり、人間の生活そのものにも悪い影響を及ぼすようになってきました。
近年になって、人類が健康で豊かな生活を送るためには、豊かな自然環境の存在が必要なことがわかってきました。そこで現在、世界各地で豊かな自然環境の保全、人間と多くの動植物が共存できる環境づくりを目指した活動がはじめられたのです。
嵐山町は都心近くにありながら、豊かな自然が良く保たれている所です。この豊かな自然環境がいつまでも良く保全されることを願って、いくつかの地域を例にして、動物調査で得た知識をもとに、その自然環境の保全について述べたいと思います。
七郷地域の池沼と谷津田
七郷地域は全国でも有数の溜め池が多い場所です。中でも古里の柏木沼や吉田の五反田沼、広野の弁天沼などでは豊かな自然が残り、ほかではあまり見られない生きものたちの生息の場となっています。谷津田と池沼の豊かな自然を維持するには、周囲の雑木林の手入れ、植物の生える堤や岸辺の確保等が必要となります。また堤などは、管理のための草刈りが行なわれており、草地性の生きものが見られます。こうした場所の環境は、地域の人たちが生活の中で保ってきた貴重なものです。今後も同様の管理を続け、現状を維持してゆきたいものです。
池沼にはタナゴ類やエビの仲間など多くの水生生物が見られましたが、これらはオオクチバスやブルーギルの放流によって現在は壊滅的な状態です。こうしたものの駆除や再放流の防止に努力して、かつての生きものたちを復活させたいものです。ちなみに埼玉県では、県の漁業調整規則第32条によりオオクチバスとブルーギルの移植が禁止されており、違反した場合は懲役、罰金になどの罰を受けます。
市野川流域
小川町より流れてくる市野川は、あまりめだちませんが、流域にはめずらしい水生生物がいまでも多く生息しています。こうした自然を守るには、まず良好な水質の確保が大切です。汚水の流入や付近での農薬使用をつつしみ、良好な水質を保って行くことが望まれます。また、改修工事等は生息場所を大きく改変し、工事中は流れさえ止めてしまいます。こうなるとそこにすむ水生生物は死に絶えてしまいます。今後はこうした生きものたちの生存への配慮もぜひ加えてほしいものです。
志賀の諏訪ノ入周辺
志賀地区の諏訪ノ入周辺は、谷津田の田んぼがよく残された地域です。ゲンジボタルをはじめとする、多くの希少な動物たちが見られます。こうした生きものたちの保全をはかるためには、この地域の田んぼや素掘りの水路、あぜ、さらには周囲の雑木林も良好に維持されることが必要です。ふるさとの生きものたちを育んできたこれらの要素を、ぜひこれからも維持してゆきたいものです。
嵐山渓谷〜大平山
嵐山渓谷のキャンプ場周辺から大平山にかけては、特有の自然環境がよく残され、緑のトラスト第3号地にも指定されています。渓谷の水辺環境を保つには、水を汚さないことや、河原に生える植物の保護が大切です。また、大平山へと続く周囲の雑木林の手入れも大事です。できれば、この地域一帯を自然に親しむための場とすることが望まれます。
大蔵の都幾川河原
都幾川の二瀬橋から学校橋までの間の河川敷は、この付近で良好な自然環境が残された最後の河原です。上流と下流はバーベキュー場やデイキャンプの場として利用され、また全体的に護岸改修がすすみ自然度の低い河原となってしまいました。蝶の里公園やホタルの里に隣接するこの部分の河原は、幸いまだ自然の河原の状態が、堤防の内側にわずかですが残されています。周囲が人間の活動のための河原となっている現在、せめてここだけは生きものたちの生活の場として保護、保存してゆきたいところです。そのためにも、自動車やバイクの乗り入れ、レジャー目的での過度な踏み込みなどは自然愛護のマナーとして、ぜひともつつしんでほしいものです。
遠山の照葉樹林
遠山の小川町境の尾根には県内でも有数のシイ類を主体とした照葉樹林があります。シイ類は主として中部以南の暖地に生える常緑の高木です。すぐ西側にある小川町の「下里のスダジイ林」は、1996(平成8)年に県の天然記念物にも指定されています。ここでは照葉樹林特有の動物類がいくつも見られ貴重です。この地域一帯は永くそのまま存続することが強く望まれます。
将軍沢の前川〜丘陵地帯
将軍沢地区の前川沿いや南部に広がる丘陵地帯は、水田と水路、さらにそのまわりをとりかこむ雑木林が主体の地域ですが、一部には各地で減少してしまった湿地状のところも見られ、町内でも豊かな自然の残る貴重な地域の一つです。
ここには前節で述べたように、水中や水辺、陸上のものなどいろいろな動物がすんでいますが、それらはみな、ここの湿地や水田、水路、雑木林などが長年にわたり育んできたものです。したがって、ここの動物たちの生存を守るためには、ぜひともここの自然環境を今までどおり、あるいはそれ以上に良好に保全してゆくことが必要なのです。
しかし人々が生活し活動している地域です。人間の生活のためにやむを得ず、環境に手を加え改変せねばならぬことがおこるかもしれません。そうしたときには、生きものの生活にも配慮して、できるだけ影響の少ない方法をとることが大切です(例えば、水路の護岸や圃場整備など)。できれば南部の丘陵地に残る雑木林と谷津田、前川周辺は、自然を残しながら活用してゆくことが望ましいでしょう。
ここをはじめ、嵐山町の各地がいつまでも人と多くの生きものが共存できるように、自然環境の保全がはかられることを願います。
菅谷館跡、オオムラサキの森周辺
菅谷館跡からオオムラサキの森周辺にかけては、雑木林を中心とした自然環境の豊かな地域です。この雑木林にはオオムラサキをはじめとするたくさんの動物が生息しています。また史跡管理のため適度な草刈が行われており、開けた環境で見られる動物類の宝庫ともなっています。ここでは、雑木林の維持、育成に必要な手入れを継続してゆくことが望まれます。