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嵐山町web博物誌・第2巻【植物編】

4.調査結果から見る嵐山町の植物の変化

筆者らは今回の調査の25年以上前に3年間をかけて、嵐山町の同様な調査を実施し、その結果を1986年の埼玉大学紀要に「嵐山町のフロラ」として報告しました。

その資料と今回の調査結果を比較したものが次の表です。

嵐山町の植物種類数|表

この表及び現地調査から、次の傾向があるように思われます。

たに見られた植物

帰化植物

セイタカアワダチソウ|写真
帰化植物(セイタカアワダチソウ)の群落
帰化植物の種類数を見ると、前回と今回の調査を比較では、総数で約100種類前回より多くなっています。

この増加は、ほぼそのまま帰化植物の増数と重なることになります。
帰化植物で25年前に見られて今回見つからなかった植物は、わずか3種類であることに対し、今回新たに見いだした帰化植物は87種類に上っています。
帰化植物はこの25年の間、ほとんど入れ替わることなく、新たな種類が嵐山町に加わり続けているといってよいと思われます。

また帰化率(帰化植物数÷全植物数×100)を見ると、前回調査では7.8%だったものが今回では16.1%と、2倍以上になっています。
野外で見られる10種類の植物のうちおよそ2つが帰化植物と言えるのです。詳細は、第4章2節の帰化植物の項をご覧ください。

暖地性の植物

今回新たに見られた植物の中には、嵐山町より南に分布している植物(暖地性の植物)がいくつか見られました。

シダ植物ではホウライシダ、イヌケホシダなど、種子植物ではカクレミノ、マルバツユクサなどがそれに当たります。気候の温暖化によるものかどうか、今後嵐山町の植物がどう変わっていくかが興味深いです。

  • ホウライシダ|写真
    ホウライシダ
  • マルバツユクサ|写真
    マルバツユクサ

回、見られなかった植物

湿地や水田などの植物

ズミ|写真
ズミ
今回の調査で見ることができなかった植物の多くは、湿地や水田の植物です。

ミズニラ、サンショウモなどのシダ植物、ムカゴニンジン、ミズマツバ、ミズオトギリ、ズミ、カワラナデシコ、オグルマ、ホシクサ、ヒロハイヌノヒゲなどです。

これらの植物の中には、以前の調査時でも珍しい植物も含まれていますが、サンショウモやホシクサのように、当時の水田には普通に見られた物もいくつかありました。

前回調査時もきわめて希だった植物

レンゲツツジ|写真
レンゲツツジ
シノブカグマ、クチナシグサ、レンゲツツジ、オオアブノメなどの植物は当時でも限られた場所でしか見られませんでした。

今回の調査では、以前それらの植物が生育していた場所に行って探して見ましたが、見つけることはできませんでした。環境が激変している所も多くありました。

境の変化について

調査で町内各地を歩いて見ると、まだまだ多様な植物が見られることから、豊かな自然を今後も大切にしていかなければならないと感じる所が多数見られました。

しかし、放棄された沼地や水田の跡と思われる場所がフジやクズに覆われていたり、植林の後間伐などの手入れがされず、下草がほとんどなかったり、アズマネザサに覆われて植生が単純になっている所も見受けられました。

以前は確かに通れた山道が通れなくなっている所さえありました。また、宅地化も以前より進んできていることも伺えました。

調査を終えて

私たちは、以前にも嵐山町の調査を行っており、今回の調査についても、前回の調査を参考に実施すれば、さほど時間はかからずに済むと考えておりました。しかし、実際に調査を重ねていくうちに、この考えを改めざるを得なくなってきました。
というのも、日本の社会はここ数十年で大きな変化を遂げており、それに伴い世界中から日本へ植物がやってきています。その流れは、ここ嵐山町にもあり、以前には見られなかった帰化植物が実に多く見られる様になったためです。
また、以前の調査から時が経ち、当然その時の環境とは大きく変化していました。そうなると、以前に調べてあったところも、再度調査の手を入れなければならなくなりました。

前述の帰化植物の増加に加え、地球温暖化の影響のためか南の地方の植物の進出が顕著であったこと、そして以前わずかに見られた寒地の植物が消え去ったことを目の当たりにし、動けないはずの植物がこの25年余りの間、実にダイナミックに変化してきたのだと思わされました。

生物はその時々の環境に合わせて生きています。この変化を知ることは人間の生活の大きな助けになると言って間違いないと思われます。
まだまだ、私たちの調査には不十分なことが多いと思われますが、今後も同様な調査を積み上げることで、嵐山町の未来についても大きな示唆が得られるかもしれません。そのためにも、今後多くの方に嵐山町の植物に関心を持って頂ければ幸いです。
また、この変わりゆく植物の流れを実感する機会を与えてくださったことに感謝いたします。

最後に、この嵐山町web博物誌【植物編】完成にあたり、直前まで病を押して調査・執筆の中心になっていた故小川伸幸氏の霊前に完成を報告し、心からご冥福をお祈り申し上げます。