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第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第4節:今昔話・伝説

嵐山町の伝説(嵐山町教育委員会編)

十、鬼鎮様(きぢんさま)

 昔々のお話です。
 川島に、刀を造る鍛冶屋さんが住んでおりました。朝から晩までトンテンカン、トンテンカンと刀を造っていました。とても立派な刀が出来るので、評判がよくなり大勢の侍たちが買いに来るようになりました。
 ある日、若い男がやって来ました。「僕、刀が造りたいのです。教えてください。」と鍛冶屋さんに頼みました。鍛冶屋さんも弟子を持ちたいと思っていた時ですから「よしよし。」と承知しました。
 若い男はとても熱心で、休み時間も休まずに、夜も遅くまで一生懸命、刀造りをするのでよい刀が出来るようになりました。何年か過ぎた時は、もう立派な刀鍛冶になりました。
 この鍛冶屋のお家には、美しい女の子がおりました。だんだん大きくなって立派な娘さんになりました。若い男は、鍛冶屋の主人にその娘さんを僕のお嫁さんにくださいと頼みました。主人は少し考えて「それでは、ひと晩に刀を百本造ったらあげよう。」と言いました。若い男は喜んで、いろいろ準備して約束の日を待ちました。
刀を造る鬼|挿絵 約束の夜になりました。トンテンカン、トンテンカンと刀を造る音が休みなしに響いてきます。みるみるうちに、三本、五本と出来ていきます。夜も遅くなりました。主人は心配してそっと鍛冶場をのぞきました。出来ました、出来ました、出来たばかりの刀が山のように積まれていました。けれども驚いたことには、刀を造っている若い男はいつもの男ではありません。まるで鬼です。トンテンカン、トンテンカンと打つ槌も火を散らしてその辺は火の海です。するどい眼、頭には角まで生えております。何本かの手は次々に出来た刀を積んでいます。主人は「アッ」と飛び出しました。そして、あの男にかわいい娘をくれられない、それには、にわとりを鳴かせて早く夜が明けなくてはと考えて、大急ぎで鳥小屋へ走りました。「ココケッコー」にわとりが鳴きました。
 主人は、またのぞきに行きました。鬼になった男は、まだまだ刀を造っています。けれどそのうちに東の空が明るくなって夜が明けてきました。
 刀は九十九本出来ていました。鬼の男は、槌(つち)を握ったまま倒れています。側へ寄って見ると死んでいました。主人は涙がとめどもなく流れてきました。亡くなった男を抱きあげて外へ出ました。そして庭の隅へ埋めて、『鬼鎮様』というお宮を造りました。
 それから、長い年月がたちました。菅谷村へ畠山重忠の館が建ちました。そしてこの川島の地が鬼門にあたるというので、信心深い重忠は、鬼鎮神社という立派なお宮を造り、 今、日本にただ一つの鬼鎮様として各地から参拝する人が絶えない状況です。

『嵐山町の伝説』嵐山町教育委員会編 (1998年再版, 2000年改訂)
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