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第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第4節:今昔話・伝説

嵐山町の伝説(嵐山町教育委員会編)

九、雹(ひょう)の降らない遠山

 嵐山渓谷を、川に添って上って行くと遠山という村に出ます。周りを山に囲まれた盆地で北側の小高い所に遠山寺というお寺があります。江戸町奉行の遠山の金さんの先祖のお寺だそうですが、今日は別のお話をします。
 遠山寺に向かって左に裏山から統いてなだらかな山があります。草むした道をたどって山へ登ると古いお墓があります。

竜體院天導自証大姉
    久屋導昌大姉

の二つの字が刻まれている墓です。女の人の墓ですが、そのお話の前にこの寺を造った人の話をしましょう。
 田口隼人というお侍で北条氏の家来だったが、戦争ばかりしている世の中がいやになって頭の毛を剃ってお坊さんになりました。名は漱恕全芳和尚(そぬぜんぽうおしょう)といい遠山へ来て遠山寺を造りました。
怒った龍と身投げする奥方|挿絵 全芳和尚の兄さんは、群馬県の木部(きべ)というところの殿様で、榛名湖という湖がとてもきれいなので、時々遊びに行き時には舟に乗って一日過ごすこともありました。ある時、この殿様の奥方が、お側付きの女たちと舟遊びを楽しんでおりましたら、舟が急に止まり周りに渦巻きができ水の中から何か出て来そうです。奥方は、こんな時、持ち物を投げると「好きな人の持っている物をくわえるものだ。」という事をある本で読んだことがありましたので、早速、頭に刺していた櫛(くし)を渦巻きの真ん中ヘ投げ込みました。櫛が水の中へ入ったかと思うと、大きな龍の頭が櫛をくわえて、ぬっくと現われました。龍が怒ったのです。そのままだと舟をひっくりかえされて乗っている全部の人が龍に呑まれてしまいます。奥方は「皆を助けるために私が龍のそばヘ行くから、早く舟を岸へ戻しなさい。」と、言ったかと思うと龍の方へ身を投げました。奥方にしじゅう付き添っている一人の娘さんが、「私も。」と大きな声を出したと思ったら湖へ飛び込みました。龍は二人をくわえて湖の底へ沈んでいきました。
 木部の殿様から全芳和尚に使いが来ました。和尚さんは早速、榛名湖へ走って行きました。湖へ着いた和尚さんは一生懸命おがみました。龍は出て来たが奥方と娘は返してくれません。そのかわり和尚さんは、龍と約束をしました。どんなに激しい雷が鳴っても雹を絶対に降らせないようにするという約束です。
 和尚さんは遠山へ帰ってきました。そして奥方の墓とお側付きの娘さんの墓をつくりました。それからは、この遠山へは、雹が降った事がないというお話です。

『嵐山町の伝説』嵐山町教育委員会編 (1998年再版, 2000年改訂)
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