第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし
嵐山町の伝説(嵐山町教育委員会編)
五、千手堂の千手観音様(せんじゅどうのせんじゅかんのんさま)
千手堂に、千手院というお寺があり、本尊様は千手観音様です。
『嵐山町の伝説』嵐山町教育委員会編 (1998年再版, 2000年改訂)
この千手院の入り口、お寺の庭へ入ろうとする手前の左の山へ少し登ると、直径一メートル位の穴があります。間違って石など落とすと、カランコロン、カランコロンと音がします。静かに聞いていると、だんだん微かにはなるが、しばらく聞こえます。深い深い穴なんでしょう。誰も入ったことはありません。
ある時、山のふもとのおじいさんがこの穴のそばへ行きました。山には兎がたくさんいましたが、一匹がおじいさんをこわがって穴の中へ飛び込んでしまいました。おじいさんは、心配しましたがどうにもなりません。観音様へ兎を助けてくださいと祈りました。
槻川橋へ行く右手に、前町長の関根茂章さんの家が見えます。昔名主様だったお家ですが、前のがけ下の川の端に穴があります。だれもこの穴へ入った者はありません。名主さんが穴のところへ下りた時、兎が一匹出て来ました。ちょうどそこへ、さっきのおじいさんも来ました。「あっ助かった、助かった。」と おじいさんは大きな声で叫びました。名主さんは、おじいさんに訳を聞きました。観音様の山の穴から飛び込んだ兎ということがわかりました。
それから後、名主様の前の穴が、千手院の穴まで続いているのだという事をみんなが言うようになりました。