第6巻【近世・近代・現代編】- 第3章:産業・観光
「第六号」はしがき
近頃団結の必要性が心ある人によって提唱されて来た様である。ここでは戦中戦後の比較を論評する余裕はないが極めて自然的に我々の会員の間に湧き上がって来る意欲、それは団結へと言ふ事であった。期せずして我々は団結する。そこでは団結することに就いて如何なる疑問も憂慮も構はれる必要は決してない。其の効果が日一日と我々の掌の中に収められて来る。我々には団結、努力に依って収められる効果を収穫の喜びと呼ぶ。昨年迄の会員の諸努力が今年の麦作其の他を極めて有利に導いた様に、此の六号に収められた諸試験も又大いなる収穫の喜びをもたらす事を確信する。眼前に見える美しい稲の実に対し感謝を捧げると共に、諸君の健闘を祈り併せて収穫の悦びを期待して止まない。
畑小麦品種比較試験 昭和27年度 担任 千野久夫 【データ略】
備考 試験も四年目だが1、2位を占めて居た61号が矢張一位だ。今年は春蒔【不明】の品種が好かった。64号はほき過ぎ、好調の27号はやはり取れなかった。67号は将来のびるであらう? なんとしても61号を強くすすめたい。間違のない作り良い品種である。
畑裸麦品種比較試験 昭和廿七年度 担任 中村常男 【データ略】
備考 昨年裸については失望的な観測が行はれたが政府の買入値に依って或程度希望を持つ事ができた。農1は多收であるが小粒で品質を落ち、紅梅は腰弱く調製の困難の為、二つとも推奨できぬ。新しい赤神力は大粒品質良く多收の点で、更に又麦媛裸は立枯、倒伏に強く、年々平均して多收を得らるるので共に奨めたい品種である。
畑大麦品種比較試験 昭和廿七年度 担任 安藤武治 【データ略】
備考 本年度麦は雨量は大分多かった。その為か如何か長稈種に比して短稈種ga何れも優位を占めた。昨年迄一番を持続した奴八萩が今年は最下位となった事は種々考へさせられる。肥料が多くなって当地でも関取の優秀性がでて来る。ビール麦は大いに奨めたい。
田小麦品種比較試験 昭和27年度 担任 安藤宗市 【データ略】
備考 昨年は半湿田でやって、農林72号が第一位であったが、今年は乾田でやり、72は最下位になった。72は分蘖力強く耐湿性がない。半湿田裏作には適すると思ふ。
61号は昨年は良くなかったが、今年は第一の成績であった。
乾田には61号、64号、準乾田には26号、64号、半湿田には72号、26号が良いと思ふ。小麦農林六一号 畑麦作肥料試験 基肥・追肥適量調査 昭27 担任 安藤重喜 【データ略】
備考 此の試験は普通、元肥と追肥とに分けて施すN肥料について、更に窒素肥料の中、最も多く使はれる硫安について適量を知らうとしたものである。【元肥】6〆【追肥】4〆が一番で、次は5〆5〆であった。今年だけでは結論はでぬが追肥の比較的多いのが良かった。
畑麦作肥料試験基肥・追肥適量調査(其の二 傾斜地) 昭27 担任 中村福■ 【データ略】
備考 培養品種農林61号。病害白渋病若干。平坦地と比較して多少違った成績が出た。7〆3〆が一番良い。7〆3〆又は6〆4〆が良いのではないか。5〆5〆が比較的良いのは61号で且、春雨の多かった故と思ふ。石N【石灰窒素】の時は元肥重点でも可と思ふ。
馬鈴薯肥料試験 燐酸適量調査 昭和27年度 担任 田島三津也 【データ略】
備考 施用せる過燐酸石灰は成分16%。馬鈴薯の収量を左右するものは燐酸成分であると云はれてゐるが、実験して始めて確信を得た。テントウ虫ダマシの駆除をもっとやれば、差は更に大であった事であらう。10〆位が最も良い事がはっきりした。播種3月19日、種子は北海道産である。
馬鈴薯ボルドー液、撒布試験 昭和27年度 担任 田島三津也 【データ略】
備考 種子は北海道産男爵。畝間2尺、株間1尺2寸
馬鈴薯の栽培にボルドー液が非常に効果のある事がP施肥と同様、自分達の年で掴む事ができた。繁忙時、此以上の回数を望む事は無理であるが、畑は2回は是非やりたい。茎蔓を成可長く枯さない事が肝要である。昭和二十七年度産麦類生産費調査表
一反歩の内訳 大麦四畝十歩 小麦五畝二十歩 生産費の内訳項目 労働人員及施肥量 単価 合計金額 備考
完熟堆肥 350貫 65円 2275円 厩肥堆積せるもの
堆肥運搬 2人 250円 500円
堆肥引込及整地 3人 250円 750円
麦種子代
大麦 3升 40円 120円 品種 好八萩
小麦 4升 50円 200円 品種 農64号
肥料代 硫安10〆過石10〆塩加3〆 1750円
麦蒔諸作業 3人 250円 750円 播種器使用
中耕麦踏(第1回) 1.5人 200円 300円 麦踏(ローラ)使用
麦踏(第2回) 1.5時間 20円 30円 (ローラ)使用
追肥硫安 4〆200匁 103円 432円
追肥及土入作業 6時間 20円 120円
土入中耕(第2回) 1人 200円 200円
大麦の刈取作業 1人 300円 300円
大麦結束運搬 12時間 30円 360円 運搬リヤカー
大麦脱穀作業 1人 300円 300円 動力電動器
乾燥調製及俵装 1人 300円 300円
小麦刈取作業 2人 300円 600円
結束及運搬 8時間 30円 240円 運搬リヤカ使用
脱穀 14時間 30円 420円 電動機
乾燥調製及俵装 12時間 30円 360円
受検労賃 5時間 30円 150円
農電料金 10時間 50円農機具消耗代 原価合計 耐用年数
大農具 27500円 30年 70円
小農具 12000円 5年 200円
莚其ノ他 5000円 4年 110円
衣料消耗代 370円合計 11257円60銭
1.大麦4畝10歩の生産量 4俵 1俵当生産費は1210円15銭
2.小麦5畝20歩の生産量 4俵 1俵当生産費は1604円21銭となる。
3等標準から差引いて見ると 大麦3等1575円−生産ヒ1210円15=364円85銭の純収入となる。
小麦3等2000円−生産ヒ1604円21=395円79銭の純収入となる。
3.公租公課は含まれてゐない。あとがき
喜びの上に喜びを重ね、悲しみ上に更に悲しみを重ねてゆくのが人生の姿であらうが、私達が耕作を続けてゆく上にも私達の努力の不足と半ば不可抗的な天候の変転とに依って悲喜交々の道程を行かざるを得ない。
共和農事研究会『共和』第6号 1952年(昭和27)9月
併し昨年のあの旱天にも堆肥を畑全面に五寸以上にも敷きめた事によって皆無に等しかった陸稲作をして反当り二石五斗以上を得たる事実と、常に天候に対して戦を挑む技術研究陣の諸成果と相俟って天候を克服する努力は歩一歩前進してゐるのだと云ふ事は、私達の上に悲しみはより少なく、より多く希望を招来せんが為の諸努力に他ならない。
努めて広い見聞と自らの努力とによって、やり甲斐のある農業に、他産業に比較して遜色のない文化をもつ農業たらしめたいと念願する次第だ。これも夢ではない。夢であってはならない。否これが実現への努力は勇猛果敢に遂行されねばならないと信ずる。
研究会結成以来、いつしか数年の才月は流れた。然し省みて悔ない道であった事を喜びたい。星霜は幾度が移ったけれども、生れ変った日本は若い。日本の農業も将来性に富む様に私達農民も常に■■でありたい。
私達はただ大地の命ずるままに、強い熱情をこの事に集中してよろこび深き農業たらしめたいと念じて止まない 以上