第6巻【近世・近代・現代編】- 第3章:産業・観光
八景
*1:御家流(おいえりゅう):江戸時代に朝廷、幕府などの公用文書に用いられた書道の流派。鎌倉時代、伏見天皇の皇子、青蓮院(しょうれんいん)門主尊円法親王(そんえんほうしんのう)が創始。小野道風(おののとうふう)、藤原行成(ふじわらのゆきなり)の書法に宋風を加えた書体。
唐崎夜雨 からさきのよるのあめ
瀲灔湖光潮露晴 けんえんここうちょうろはる
玲瓏山色暮雲横 れいろうたりさんしょくぼうんよこたう
唐崎一夜摸稜手 からさきいちやもれうのて
半作松風半雨声 なかばはしょうふうなりなかばはうせい
夜の雨に 音をゆずりて ゆうかぜを
よ所に名たつる からさきの松
矢橋帰帆 やばせのきはん
釣竿手熟白頭翁 てうかんてじゅくはくとうおう
辛苦客船西又東 しんくすかくせんにしまたひがし
幾度風帆帰去後 いくたびふうはんかへりさりてのち
呂公栄達一盃中 りょこうえいたついっぱいのうち
真帆引て 矢橋に帰る 船はいま
打出のはまを あとのおひ風
堅田落雁 かたたのらくがん
鴻雁幾行更不弧 こうがんいくばくゆくぞさらにこならず
晩風帯月落東湖 ばんふうつきをおびてとうこにおつ
嚢沙背水堅田浦 のうしゃはいすいかたたのうら
猶見孔明八陣図 なおみるこうめいはちじんのづ
峯あまた こえて越路に まづ近き
かたゝになびき 落る雁がね
勢田夕照 せたのせきしょう
沙鳥風帆帯夕陽 しゃちようふうはんせきようをおぶ
夕陽人影與橋長 せきようじんえいはしとともにながし
勢田曝網東山月 せたにはあみをさらしとうさんにはつき
一色江天両景光 いっしきこうてんりょうめいのひかり
露しぐれ 守山遠く 過来つゝ
夕日のわたる 勢田の長橋
石山秋月 いしやまのあきのつき
秋風肅颯一店涯 しうふうせうさつたりいってんがい
霜満四山不帯霞 しもしさんにみちかすみをおびず
古木回厳寒月影 こぼくかいげんかんげつのかげ
吟残葉々夢中花 ぎんじのこすようようむちうのはな
石山や にほの海てる 月かげは
あかしも須磨も 外ならなぬとは
粟津晴嵐 あわづのせいらん
嵐度粟津春興長 あらしあわづにわたってしゅんけうながし
吹霞吹雨似相狂 かすみをふきあめをふいてあいくるふににたり
山花片々一蘆浪 さんくわへんへんたりいちろのなみ
湖上閑鴎夢也香 こしゃうのかんおうゆめまたかうばし
雲払う あらしにつれて 百ぶねも
ちぶねもなみの 粟津にそすむ
比良暮雪 ひらのぼせつ
吹入雲兮飛入瀾 ふきてくもにいりとんでなみにいる
比良嶺雪暮江寒 ひらのれいせつぼこうさむし
軽舟短棹興何尽 けいしうたんとうきょうなんぞつきん
無作剡渓一様霞 えんけいいくようのかんをなすことなかれ
雪はるゝ ひらの高根の 夕くれは
花のさかりに すくる比かな
三井晩鐘 みゐのばんしょう
湖面朦朧画不成 こめんもうろうとしてゑがけどもならず
昏鯨高響出円城 こんけいたかくひびいてえんじょうをいづ
霞間好是客船月 かかんよしこれかくせんのつき
十倍楓橋半夜声 じゅうばいすふうきょうはんやのこえ
おもふその 暁ちぎる はじめぞと
まつきく三井の 入相のかね