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第6巻【近世・近代・現代編】- 第1章:地誌

第7節:七郷村郷土研究(抄)

第二編 郷土研究

第五章 七郷村の觀察

第八節 七郷村の家庭の觀察

觀察要項

1 家庭は有機的共同生活の最も自然的の物である。學校又は國家に備はる種々なる機関の大體は完備してゐる。唯違ふ處は組織の單複大小に他ならぬのでありますから(大人と嬰児の如く)家庭の觀察によってそれより大なる複雑なる組織を類推させる基となるのです。

2 家庭なる有機的團體。物質的要素たる家と其の家に住む人。

3 家につきては、其の要素たる用地建物、及び其の位置であります。位置については學校の何方にあるか、又は何町(ここでは小川局)の何れの方向、何町の處にあるかを明かにする時は遠く離れたる土地との通信に都合がよからう。若し自己の家が全國に商う商店であったら、買手が品物を注文するに不審でないわけである。

4 衛生上自分の家はどうか、氣候上に於て缼くる所はないか、熱過ぎたり寒過ぎたりはせぬか、平坦の所にあるか、傾斜地であるか、陽地であるか、陰地であるか、等

5 交通上自己の家はどんな所にあるか・・・先づ道路に對して學校役場へはどうか、汽車電車等に對してどうか、用事の便じ得る都會に對してはどうか、等の觀察。

6 敷地については、敷地の坪數一族全體に割り當てると一人が幾坪になってゐるか、敷地は平坦か斜面になってゐるか、凹凸であるか否か、地盤は軟らかか堅いか、乾燥か等。

7 敷地境界にはどんな設備があるか、之れは何の為に設けてあるか。

8 建物 其の材料、其の形、平家作りか、二階建か、廣いか、狭いか、間數、總建坪數、家族全體に大して狭いか、廣いか等。

9 玄関から内へは無断で一歩たりとも、何か刑事上の犯罪等に非ざる限り何人たりとも侵入する事の出来ない城郭で、其の中は即ちスィートホームである。憲法の定めのある事を直觀せしめる事が必要であります。

10 建物の材料を分解して觀察させる必要がある。乃ち瓦、材木、石材、釘、硝子、紙等の種々なる材料について猶この材料を如何にして何處から取り寄せたか、其の價は、其の産地は、いふやうに教師が指導してやったなら一層有効と思ふ。

11 家族の觀察
 何人の家族があるか、年齢の階級、家族間の續きあひ、家長たる斧は誰か、父か、祖父か、母か、兄か、これ等の家長に對し家族は如何なる関係を有して居るかと云ふこと。

12 家族の分業
 これは社會を見る上に必要な基礎となるのである。父の仕事と家庭への貢献、母、祖父母、兄姉弟妹はどうか、一番多くの功勞あるものは誰か、児童各自は家庭に於て如何なる地位にあるか。如何にしたら家族の恩恵に報ふる事が出来やうか。

13 家庭と個人との関係
 各個人は家庭なる一團體の裡つの要素であって、其の團體の保護を受け、同情を受けて、温かく且つ平和に生活して行く代りに其の團體の為に貢献をなし、そして一家の繁營を図らねばならぬことを直觀せしめねばならぬ。

14 家長の權力
 歴史了解の基礎觀念を養ふ上に家長の權力を知らしめねばならぬ。
  イ、外敵に對する防禦
  ロ、内部の家族の反抗に對する威壓の働き
  ハ、家族相互の爭ひに對し正理公平の判断を以て置處する働き
  ニ、家族各員の幸福を増進せんとする種々の心配(積極的並びに消極的の両方面)
  ホ、家屋、敷地等に関する保存等に對する心配

15 家督相續
 これは大にして国家に於ける皇位継承である。国家の法律の不完全の時代には継承に付いて隨分■乱の基ろなるやうに家庭にもこれを見る事がある、

16 家庭とは何ぞや
 年少なる児童にこれを問ふ時は「家のこと」であると答ふ。若し家の焼失せん時には家庭なきやと云ふに然らす。水草を背負ふて日に居をかふるものに至りても家庭を有す。而し家庭とは家族にもあらず。動物の如きは家族あり、けれども之れを家庭とはいはぬ。其の間に温き愛情の関係が出来て居て始めて家庭といふに足る。故に家などは有形の一要素にしか過ぎぬ。家庭は有機體である事を了解させねばならぬ。

七郷尋常高等小学校(板倉禎吉編)『郷土研究』(嵐山町立七郷小学校蔵)
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