ページの先頭

第6巻【近世・近代・現代編】- 第1章:地誌

第7節:七郷村郷土研究(抄)

第二編 郷土研究

第五章 七郷村の觀察

第二節 七郷村の土地

觀察要項

1 面積 東西何程、南北何程、最も巾の廣い所が何程、何方里あるか。
2 境界 隣村との境は何處にあるか、どんな屈曲になってゐるか、之を図にかいたらどうか。其の形はどんなか、境界線は山の峯か、川の岸か、池か沼か。地蔵尊か道祖神とか、庚申塔とかが境界にはあるもの。
3 地形 地理では地勢とも云ふてゐる。平坦であるか、山地であるか、山地なら其の山、谷、丘の具合方向はどんなであるか。平な所はどの位廣いか、交通を便にするにはどんな方法を取ったらよいか、田、畑、山林はどんな割合に分布されてゐるか。
4 地形の要素 何と云ふ山があるか、其の高さ、この山がわが村にどんな影響を及ぼして居るか、即ち風位を遮断してゐるか否や、光線を遮切して居るや否や。山からの副産物はどうか、景色はどうか。これ等はやがて天下の大山並びに住民との関係等を了解せしむる基礎觀念となるものである。次に川があるか、其の方向、海に入るか、池沼が川に流れ込んで居るか、水源は何れにあるか、其の流水の速度はどうか。
5 其の他 池、沼、湖、海岸、海、氣候、生物等。

七郷村の廣袤*1 東西四里餘、南北一里余(道路にて直線的にあらず。周囲凡そ十五里、面積七七方里なり。吉田・古里・越畑・勝田・杉山・廣野・太郎丸の七字から成ってゐる。

1*:廣袤(こうぼう)…広さ。ひろがり。

官有地と民有地の割合|円グラフ民有地の地目別割合|円グラフ

地目反別及民有、官有の區別 明治四十三年拾月末日調
 官有地
  神社地 一町一反一畝〇四歩
  山林 八反五畝一三歩
  河川 六町四反二畝
  道路 六六町九反一畝一五歩
  用悪水路 二〇町
  溜池 一一町二畝二七歩
  提塘 一町一反三畝〇九歩
  寺院地 一町八反七畝二二歩
  合計 一〇九町三反四畝
 民有地
  田 二四七町一六歩
  畑 二三三町一反三畝〇三歩
  村宅地 四一町 二畝〇三歩
  山林 五一三町四反六畝一九歩
  原野 四三町七畝〇一歩
  雑種地 五反三畝〇五歩
  學校敷地 九反八畝〇四歩
  村社地 一町二反七畝一九歩
  墳墓地 三町七反七畝一二歩
  溜池 五町六反五畝一三歩
  合計 一〇八九町九反一畝〇五歩
 總計(官民有) 一一九九町二反五畝〇五歩

七郷村の境界 南は市の川、北は滑川の■■たるを以て境を交し其の他は山嶺及び谷とで他村と境をなしている。形細長く虎のうそぶく形とでもいはうか。

七郷村の地形及地形の要素 七郷村の山脈及び高所の名及び川・沼等については已に第一章陸界に於て述てあるから略すが、七郷村は先づ山の最も多い處であるがあまりに高い山は更にない。一帯の高さの山脈が東西に走ること三條、其の内南部山脈は越畑杉山の一部、中部山脈は吉田、勝田の一部の住家へ日光遮断をしてゐる。またこれらの山脈は冬の赤城をろしを防ぐ為めに氣候には頗る益してゐる。
 畑は山にたてかけたるやうであるから強度の斜面をなしている。平坦な處は皆水田である。であるから畑は田より其の面積が少ない。
 秋の菌狩は有名なもので熊谷町邊からもながく遊ぶもの多い。風景は突兀*1たる岩石も布を洒さん飛瀑もなければ奇景には乏しいが、春の若菜、夏の夕涼、秋の紅葉、冬の銀世界一として人目を一新するに價せぬものはない。殊に閑静で黄灰万丈*2の町もなければ衛生にはこの上なしの處である。
 水利について云ふと山多しと雖も高くない故に、高所の水を利用して機械を運轉せしめ、工業交通を助くる等は望むべくもない。飛瀑の壮景を眺むることも得ず。川ありと雖も大ならざれば汽船を浮べて運輸交通を盛んにし、漁船に竿さして漁業の發展を圖る事など、夢想することも出来ぬ。只本村面積の二割強を占むる水田に利を圖るのみ。雨水を湛ふる九十の池沼にはこれらの水田に水を導くためのものである。實に二十二町三反九畝二十三歩の高価なる地所はこの為めに潰され、市の川、加須川、滑川に設けられある幾多の堰は、これがために作られたのである。不定形の水田、水路を只整理したなら水利の上のみでなく、米作の増収、二毛作の励行による麦、馬鈴薯等の増収を見る事が出来るであらう。

*1:突兀(とっこつ)…高く突き出るさま。
*2:黄灰万丈…紅塵万丈(こうじんばんじょう)か?。市街地などに土埃(ほこり)が立ちこめるさま。

七郷尋常高等小学校(板倉禎吉編)『郷土研究』(嵐山町立七郷小学校蔵)
このページの先頭へ ▲