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第6巻【近世・近代・現代編】- 第1章:地誌

第7節:七郷村郷土研究(抄)

第二編 郷土研究

第一章 郷土の陸界

第三節 川の觀察

觀察要項

1 川と他の水との區別 即ち川は一定の速度を以て不断に水が流れて居るものであること。
2 川の要素 (長さ、深さ、幅及び水の速度)
3 上流、中流、下流と云ふ様な部分の區別。上流にては其の速度急に、中流にては稍(やや)緩に、下流にては緩に、川口にては全く零となる。
4 水の力の非常に大であって人は之れを利用してゐる。即ち傾斜の甚だしい處では水車を設けたり、また、水力電氣を起したりする。
5 各部の地形を觀察すること。上流に至ると必ず一つや二つの峡谷があって水が鋸(のこぎり)の如き作用をなし、其處には多く地層が現われて居る。中流では侵食作用と沈殿作用とが相半ばし、大水でも出る時には川床が高くなる。下流では極く緻密な坭土や、細砂を沈澱する。
6 本支流及分流の別、三角州、島、流域など。
7 川の方向 (海岸線に平行して流れるもの、海岸線に直角に流れるもの)
8 水源 
 イ 單純なる雨水を源とせるもの
 ロ 湖沼を源とせるもの
 ハ 泉を源とせるもの
 單純なる雨水を源とせるものは大雨に際して洪水を起し易い。故に近頃電氣水力の事業では上流に先づ溜池を作って、水量を常に平均させる方法を取ってゐる。
9 水源と森 森林は水源を涵養する上に洪水を防ぐ上に必要である。氣候の緩和、暴風の為に風致の上にも影響がある。そこで濫伐を防ぎ、植林の方法を講ぜねばならぬ。
10 川と風景 本邦でも著名な風景は大概河岸にあるのだ。郷土にどんな風景のよい所があるか、何んな詩文に残されたものがあるかを考へ、我等はこの風致を保存することに努めねばならぬ。
11 人生との関係 川のながいもの、深いもの、幅の廣いものはそれの多いほど交通に不便を與へ水害をも起すのである。然れどもこの障害を防ぐために橋がある、船がある、堤防がつくられるのである。また川は其の流域地に水を與へるから生産業に及ぼすことはこれも多大なるものである。また、魚、貝、水草等の水産物をも提供する。

郷土の川

 加須川 七郷村の十三間沼(じゅうさんげんぬま)から流れ出で、一里數町東流して市の川に入りて其の名を失ふ。流れ急ならず、河幅廣き所にて五間に過ぎぬ小川なれど、水量多く灌漑の利便を與ふことが大である。

 滑川 七郷村の柏木沼(かしわぎぬま)に發し、三段田沼(さんたんだぬま)及新沼(しんぬま)から流出する水を合せ、宮前村に入り、西吉見村にて市の川に合する間、幾多の支流を入る。其の長さ五里半に及ぶ。両岸及河底は殆ど砂礫を含まざれば水常に黄濁である。而して両岸に篠その他の丈低き樹木あるを以て、二宮山等の郷土にての高山に登りて之れを見るときは其の流れ地圖を見るやうである。

 市の川 大里郡男衾村(おぶすまむら)に其の源を發し荒川に流れ込む迄其の長さ十里に近く、大ならねど氾濫すること多きを以て世人に知られて居る。

 槻川(つきがわ) 秩父郡槻川村に流れを起し山谷を流る。上流地方に於て其の地層及び侵蝕作用を觀察せしむるによい。風景また美である。(両岸の岩石主として石灰岩であるから水誠に清い)長さ凡そ三里の兜川(かぶとがわ)を入れて菅谷村鎌形に至って都幾川に合せられる。それまで長さ凡そ十里である。

 荒川 秩父郡大瀧村(おおたきむら)の山奥に源を発して五十五里、隅田川(すみだがわ)と稱して東京湾に入る。熊ヶ谷町は蓋し其の川の中流である。河原最も廣い。分流に見沼用水がある。川口に三角州が石川島を作ってゐる。洪水を以て埼玉縣を有名にしたのはこの川のある為である。幾人の縣人を苦しめたか知らぬ。鮎を産し、名所また多い。

 山多しといっても高くないから、高所の水を利用して工業・交通の上に便を與へては居らぬが、本畠村(ほんぱたむら)へ遠足すれば水車を觀ることが出来る。また飛瀑の壮觀も先づない。東京に入りてはいざ知らず、汽船の便もないが、帆船やいかだのりは少くない。

七郷尋常高等小学校(板倉禎吉編)『郷土研究』(嵐山町立七郷小学校蔵)
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