第6巻【近世・近代・現代編】- 第9章:戦争
前線慰問誌『比企』第1号 (1944)
郡下学生傑作集
新年を迎へて
鎌形国民学校初等科三年男子 I
初日の出もしずかなお正月です。雲一つありません。国旗を立ててからおぞうにをたべて学校へ新年祝賀しきに行きました。おしやしん*1の前にしせいを正しくさいけいれいをしました。この時ぼくはしずかに考へました。私達は忠義をつくすことの、ほかに自分のつとめはないと思いました。しきがおはつて家にかへりました。あたたかい日なので何げなく梅を見ますと芽の出はじめたのや花のさいたのがいく枝かありました。友達がたこをあげてゐたので私は戦地の事を思ひ出しました。はげしい飛行機のたたかひや兵たいさんたちの事を思ふと私は一生けんめいべんきやうをしなければならないと思ひました。兵隊さんはお正月もなく戦かつてゐることを思ふとおもちをたべてしずかなお正月ができることをありがたく思いました。米英をやつつけてみんなたのしいお正月をするやうに氏神様にお祈りして家にかへりました。
前線慰問誌『比企』第1号「郡下学生傑作集」 1944年(昭和19)5月
*1:「御真影」のこと。