ページの先頭

第6巻【近世・近代・現代編】- 第9章:戦争

第2節:戦争の記録

海軍入隊大塚新作さんへの慰問文 昭和18年6月頃

大塚新作:1925年(大正14)9月21日、古里に生まれる。1938年3月七郷尋常高等小学校高等科卒業。1944年(昭和19)3月6日、横須賀市海軍病院で病死。海軍水兵長。

新ちゃんお変わりありませんか。希望に満ちた一日を送っていらっしゃる事と遠察します。
さあどんな姿でせうね。想像がつきませんね。
学校の教材にも沢山海軍思想涵養につとむるものがあります。
一年では工作でお舟や軍艦を作らせ、二年では軍艦の歌があり、遊戯あり、その他落下傘部隊あり、各教材とも完璧を期してゐます。
今年は大変に先生方が変りました*1。私は相変らず古だぬきで暮しています。
新ちゃんの組からは井上朝恵*2、強瀬良晴さんが出願し■て征途につきました。
今年は高二女の担任でしてね、実に珍風景を呈してゐます。
大きい子供、小さい先生、殊に体操の時などは相当閉口します。
馬力ある子供の指導ですから、へばりますよ。
こちらはいよいよ農繁期に入らうとしてゐます。毎年勤労奉仕とし東京の家政学院生徒を迎へますが、本年は自力だけで行ふさうです。
蚕も四眠起きてゐます。何時から休みにしようかと調査中です。
山本元帥の国葬も目前に迫りました*3
悲しいのか憎いのか惜しいのかはっきりと名状し難い気持です。
航空戦力の偉大さは世界人類の認むる所です。
この複雑にして変転極らない戦々に於て、山本元帥の如き作戦家を失ふ事はほんとに惜しくて惜しくてたまりません。
新作さんしっかり頼みますよ。
山本元帥の悲報に又してもアッツの血戦。
仇敵米英一日も早く打のめさねばなりません。
アッツの悲報*4には子供と泣きました。
憎悪の念はむらむらと燃え上って来ましたよ。
ほんとに自重なさいまして御推進下さい。
及ばずながら私も教育道を通して米英撃滅に拍車をかけてゐます。
では又の日に
 六月一日        かしこ
            金子ひさ
大塚新作様

*1:前記事「1943 七郷国民学校職員より出征兵士への慰問文」を参照
*2:井上朝恵…1925(大正14)9月16日、広野に生まれる。1938年3月七郷尋常高等小学校高等科卒業。1944年(昭和19)11月29日、フィリピン方面海上で戦死。海軍水兵長。
*3:1943年(昭和18)4月18日、連合艦隊司令長官・山本五十六戦死。5月21日、大本営、戦死を発表、6月5日、国葬が行われる。
*4:5月30日、大本営、アッツ守備隊が「全員玉砕」と発表。

新作君元気で軍務につくしてゐることでせう。
しばらくお便もやらず古里を心配してゐることでせう。
もう麦も刈るばかりに伸びてゐます。かひこも大きくなって来ました。四月の遠足は長瀞でした。
八郎*5さんも勝一*5君も元気であそんでゐます。
新作君も軍艦に乗って南太平洋や北太平洋ばかりでなく印度洋まで乗出すことでせう。
一生懸命軍務に精励し早く帰って僕等に戦闘状態を聞かせてくれ。僕等も必勝の信念をもって勉強します。ではこれからはなほしっかり軍務につくして下さい
           さやうなら
大塚新作君
 埼玉県比企郡七郷学校安藤向*6

*5:大塚八郎、大塚勝一…大塚新作の弟。
*6:安藤向…古里向イ(むかい)の安藤義雄のことか?。

暫く御無沙汰致しました。
其の後お変り有りませんか僕も毎日元気にて学校に通って居りますから御安心下さい。
家の方はもう蚕も発生しました。さうして大変忙しくなりました。
此の頃は雨が降らないで井戸水に大変困って居ります。そうして苗代を作るにも一所にまとめて作る事になりました。此の間は内出(うちで)の中村勝君の家が焼けました。水がないので容易に消えませんでした。
此の間は新ちゃんの家の正市さん*7に手紙をもらひました。
元気で居るさうですから御安心下さい。
僕はスマトラと言ふ当て名を見る度に椰子(やし)が食べたくなります。
暑くなりますから伝染病や何かの病気にかからぬやうに気を付け一生懸命軍務に盡くして下さい。終りに新ちゃんの御健康をお祈り致します
          さようなら

*7:大塚正市。大塚新作の兄。

拝啓長らく御無沙汰致しました私も元気で通学してをりますから御安心下さい。兵隊さんも元気で御奮闘の事と思ってゐます。苗代にはもう種を蒔いてしまひ、桑もすじょうよくのびてまひりました。蚕も大きくなって桑くれも間に合ない程大きくなりました。学校の学園の花も、家の花も、今年も此の夏を仰いでゐるやうに咲いてゐます。今は菜の花や麦の緑が黄になり始めました。たんぼを見ると苗代一面に種を蒔いた所が水にひたひたとなってゐます。私達は麦をよく育上げて、りっぱな麦や稲にしてお国の為に忠義を盡すつもりです。兵隊さんも一生けんめいに働いてお国の為にお盡し下さい。私達も精神を以てお国に御奉公をしたひと思ってゐます。では兵隊さん御身大切にしっかりお働き下さい。
          さようなら
兵隊さんへ
        比企郡七郷国民学校
             高一女 杉田キミ子

このページの先頭へ ▲