第6巻【近世・近代・現代編】- 第9章:戦争
日増に寒さが加はります。支那大陸も定めし寒い気候となったでせう。戦線の各位に手紙を出す事を控へてくれとの注意があったので遠慮いたして居りましたが、最早や北支も上海方面も徹底的大勝を博したのでもう手紙を出してよからうと思ひ筆を取ります。
行政史料
先づ銃后の吾々が新聞を便りに各位の動静を注視しつつある折柄、最も驚かされたのが加納部隊長の戦死の報と共に部隊全滅の流言に胸を打たれた事です。加納部隊には本村出征者の大部分が居るのであります。其后幾数日を経て本村出身の各位が無事なる事を知り欣喜雀躍いたしました。然し北支に於いては田島伍長、島田上等兵の両人が悪戦苦闘の結果皇軍の華と散った。両勇士共武人の鑑として武勲永へに赫々たるものあると又遺憾とする所である。さりながら皇国に身を捧ぐる軍人として本懐ならんと存じます。今や日支事変も戦線に於いては八分通り戦果を収め、全支那軍の命脈も旦夕に迫りつつあるは各位御奮闘の賜と感銘いたし居る次第であります。
然し英国や露国との関係が今后如何な風になるか憂ふべきではあるが、日、独、伊、三ヶ国防共協定も出来た今日、我国としては意を強うし日支問題を徹底的に解決し、東洋永遠の平和を築き上げることが出来ると信じます。そして各位等皇軍大奮闘活躍の成果を発揚されるものと存じます。
銃后の護りは充分に遂行して居ります。各位の御家庭も何等顧慮する所はありません。どうぞ御安心下さい。そして益々元気を揮ひ御奮闘の程御願いたします。
時将に向寒の砌り御自愛の程切に御願ひいたすと共に武運長久を御祈りいたします。さようなら
昭和十二年十一月二十日
七郷村長 栗原侃一
外吏員一同