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第6巻【近世・近代・現代編】- 第9章:戦争

第2節:戦争の記録

七郷村長と役場吏員から七郷村出身将兵への慰問文1 昭和12年夏

 国防の第一戦御活躍の皆さま此の暑さにもめげず益々元気旺盛で皇国の為め御奮闘の段洵に感謝に堪えません。役場もなかなか忙しいので知りつつ皆さまに筆を執る事が出来ずに御無沙汰致して居ります事は御赦しを願いたい。近頃変った事も少いが本年四月全国農産物販売協会主催の農会産業組合連絡協調販売統制優良村として農林大臣より表彰されました。然かも全国第二位でした。農林大臣官邸で表彰式がありました。体験談の発表をやりました。愈々全国に名を挙げました。是で表彰式が三回続きました。御喜び下さい。
 継に役場は栗原喜十郎貯金王が四月より県庁の役人となりまして会計課に勤める事になりました。其の代りに太郎丸の中村嘉一郎君が入いりました。然し五月末より本月二十六日迄二ヶ月間勤務招集で入隊して居ります。ぢきに長い剣を吊るす様になります。田島上等兵も家庭の都合で四月限りで退職、其の代りは安藤文雄坊ちゃんが入りました。中村武一ちゃんが経済更生事務の為めに臨時に出て居ります。
 学校の方は四月の異動で石川剣道三段が野本校へ転任しまして、其の代りに小川の御令嬢が来ましたが、僅か二ヶ月で四百四病の外の病気とかで当年二十三才の花盛りを無惨にも自ら散らしてしまいました。多分ままならぬ浮世とでも感じたのでせう。其の代りは引導の必要あってかの駒澤大学卒業の春日康明禅師。お蔭で生徒もお経を覚えるでせう。まあ変った事は是の位でせう。
 今年は天候がよいからお米はうんと取れるでせう。繭も高かった小麦もなかなか値がよい。これで百姓も浮はれるでせう。然し浮いては居られないのです。時将に国家存亡の非常時です。お承知の通り北支の問題が重大性を帯びて来ました。一触即発の危機も孕んで居ります。否パンクしそうです。是で露満国境と北支と満洲の保安と国を挙げて緊褌一番の重大時局に直面して居るのであります。幸ひ露国の内争は幾分意を安うする事が出来るが油断は禁物です。皆様第一線はお願ひいたします。
 銃後の守りは吾々が引受けます。後顧の憂無く帝国軍人として関東男子として将亦本村の代表として一層の御活躍を御願いたして筆を止める次第であります。さらば。 七郷村長栗原侃一 


私も皆さんに一と言御挨拶を申上たいと存じます。諸君には過ぐる日なづかしき故郷を後にして遠い遠い満洲と云ふお国でお働きになって居ります事は誠に邦家の為め何とも言いない感が致します。お苦労様の事と深く感謝致します。諸君とトラホームの健診や徴兵検査には小川の小学校で一所に顔を合せたのは何時だったでせうか…… 諸君には立派なお体を持ちまして首尾能く甲種合格となりまして、徴募官殿からお褒めになられました皆さんであります。其の時皆さんの喜びの面影は今でも私にはありありと目の前に見えて居ります。愈々抽籤に依りて各々現役証書が参りまして其れ其れ所定の部隊に入営せられたのであります。歩一の留守隊へ入営したお方もあります。直接満洲に入隊したお方もありましたが、現在では歩一に入った方も満洲の野で働く様になりまして、お満足の事と存じます。申上げる迄もなく、現下北支問題は日に増し混沌たる情勢でありまして、諸君には定めしお緊張の事と存じます。何卒時節柄暑い時であります故、ましてや満洲方面は気候の調子も変調子と聞いて居ります。どうぞお体を大切に邦家の為め後顧の憂なく帝国軍人としての本分を全うせられん事を切に切にお願い致します。併て諸君のお健康をお祈りして暑中の御伺いと致します。 兵事主任藤野菊次郎 


 東亜の風雲急を告ぐ時故郷遠く離れて国防第一線に皇国の為めに奮闘活躍する皆様の健康をお祈り致ます。尚銃後に於ては薄弱の身なれども引受け身心の続く限り努力奮闘致す心算で居ります。御安心下さい。そして故郷七郷の名誉の為、否、皇国の為めに御精進致されん事を御願い致します 安藤富彦 


前略 第一線を守って居られる諸兄先般は暑中御伺い有難ふ。皆さんの精神集中の為か役場の者村長さん始め皆元気です。北支の方が大分ラージポンポンだそーですね。前線はしっかり頼だよ。僕も第一線に立てる様心待ちして居る。村の人も皆元気です。臍下の呼吸により石の様に充実し居る。これで銃後も不動の信念がある。安心して呉れ。中央にて一筆諸君の奮闘を祈る。 安藤文雄 


 第一線の皆なの健康を祈る。補充兵の俺ではあるが召集令状の来るのを待って居る。
中村武一 

行政史料
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