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第6巻【近世・近代・現代編】- 第8章:女性の活動

第3節:法人組織

菅谷地区・七郷地区母子愛育班合同体験発表会(1965年)

集団検診の成果(寄生虫)

            平沢支部 村田みち

 常に健康でありたいと言う事は人誰しも願うことである。最近、成人病ということばはよく耳にされ、そしてその研究も対策もなされているが、こと寄生虫のことについては一般人は余りにも無関心である。私も愛育班で保健婦さんにそのことを聞かされ、おそろしさを知り、驚きと共に何とかしなければと考えたのだった。
 ある集会の席上で、こんな話を耳にした。
 「家の主人は、どうもこの頃胃腸の調子が悪く、息切れもはげしく、顔色が良くない。肺病じゃないかしら」と。これを聞いて、ふと私は以前の保健婦さんの話を思い出した。寄生虫のことを……。こんな頃だった。折しも39年(1964)11月のこと、集団検便が計画されたのは。平沢地区へ検便の容器が配布されたのだった。地区民あげて検便に参加。その結果を待つこと数日、役場、保健所の努力によって結果が発表された。それを見て、先づ鉤虫(こうちゅう)【十二指腸虫】保有者が意外に多いのに驚いた。平沢に保有者が多いことは何を物語るか。これはひとえに農村部落であることだからであろうか。いや違う。農村であるだけに限ったことではない。村民の個々一人一人がつとめて関心を高め、早期発見と対策を考えれば、必らずや病は何とか未然に防ぐことができるのではないかと痛感した。当時の一例であるが鉤虫保有者家族の過去をたぐって見た。鉤虫の非常に多く寄生していた一老人Aさん。Aさんは農事にだずさわっていたが、毎日がとてもだるく仕事が手につかない。すぐ疲れてしまう。あげくの果て生つばが出る、動悸がすると訴えていた。11月のある日、Aさんのもとに検便の容器が配布された。しかし年寄りゆえ鉤虫など夢にも思っていず、検便に応じようとしない。幸にその家のお嫁さんが理解ある会員の一人、「おじいさんもぜひ、検便をしていただきましょう」と再三すすめたが、「おれは酒を飲む。酒を飲む人はそんなもの飼っておかん」となかなか強腰し、聞き入れようとしないばかりか、しまいには手を振り上げんばかりの様相だ。
 第1回目は仕方なく若夫婦だけ検便に参加した。二人共鉤虫の保有者であった。Aさんも家中の人に鉤虫が寄生していることを、この結果から、うすうすながら感じとったらしい。折しも公会堂で保有者の駆虫薬の服用で若夫婦が1日入院。薬を服用している間、保健所長さんから鉤虫は1軒で1人でも保有者がいると必ず、又ふえてしまう。家中こぞって一気に退治してしまわないと鉤虫を皆無にする事はできないのだという事を学んだ。ますます意を強くした嫁の会員さんはその日から又、頑強なこのAさんを説得しはじめたのだ。「おじいさん、今度こそぜひ検便して下さい。現に私達には十二指腸虫がいるではありませんか。私が保健所をたづねて検便していただきますから。おじいさんが生つばが出たり、疲れやすいのも十二指腸虫がいるためかも知れませんよ。一度検便をやって見ましょう」と根気よく言って聞かせ、お願いをした。幸いその頃二度目の検便通知があった。しぶしぶとAさんも便を出した。嫁さんの努力がAさんにも理解できたのだ。その結果はどうでしょう。鉤虫保有の源はAさんだったのだ。異状という程の保有数だ。今まで頑張り通したAさんも完全に折れてしまった。二度目の駆虫薬服用は公民館で行われた。進んで出席したとか。当時やせっこけていた老人のAさんも今ではすっかり元気をとりもどし、「医者にかかる金でサンマでも買って食え」と云って胸をはって見せ、赤い顔をほころばせ、足どりも軽く農事にいそしんでいる。かくして家庭の幸福がもたらされたのだ。以上、会員の苦心談。

 さて前おきが長くなりましたが本論にはいります。

表1 検便の成績
39年(1964)度
 該当数364、受検者数222、鉤虫卵保有者59、保有割合27パーセント
40年(1965)度
 該当数330、受検者数163、鉤虫卵保有者11、保有割合6.7パーセント

 該当者の61パーセントのみ検便できなかった事は誠に残念であった。集団駆除が如何に効果的であるか39年(1964)に行った時の27パーセントが40年(1965)には6.7パーセントになったことだけで明白である。

表2 駆虫薬服用の効果
鉤虫保有率
 服用前27パーセント 服用後4.8パーセント

 陽性者全員が駆虫を行ない検便をするということができなかったが、表にしてみて薬の効果を痛感した。服用しても尚、39年度、40年度と連続して保有者となった人は、わずか3人である。又保有者中一家で2〜3人が80パーセント、1人だけという家は20パーセントであるということも分りました。

 次に質問紙により、駆除実施前后の健康状態についてまとめてみました。(陽性者のみ)

表3 あなたは駆除を行う前にはどんな病気をしましたか。
 心臓病3 腎臓病0 胃腸病3 肝臓病1 神経痛7 貧血症5 その他2

表4 自分の体にどんな異常感がありましたか。
 頭痛1 どうき6 むくみ0 顔色悪い16 いきぎれ3 つかれやすい18 その他8

表5 駆除を行った後、体の調子は良くなりましたか。
 良くなった29 良くならない4 分らない

表6 よくなった人はどんなところが良くなりましたか。
・何となく元気がでて疲れも回復が早い。
・顔色が良くなった。
・食欲が出た。

 以上で病は早期発見し、対策をこうずれば未然に防ぐことができるのだと痛感させられた。愛育会の活躍、会員の協力と努力、また個人個人の衛生に対する関心の高まりが、このような良い結果を生じたのだと思う。実にこの間における集団検診、集団駆除と寸分に表わせない程のお骨折りをいただいた衛生係の人や保健所長さん、保健婦さんの御尽力に心からお礼を申上げます。
 今後とも、このような検診には区民あげて参加し、早期発見につとめ、私達の村、菅谷から病魔を追放し、明るい農村を築こうではありませんか。また、かくなることを祈りながら、つたない私の発表にかえます。

菅谷地区・七郷地区『母子愛育班合同体験発表会』資料 1965年2月15日
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