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第6巻【近世・近代・現代編】- 第8章:女性の活動

第1節:婦人会

菅谷地区婦人会『つどい』創刊号1958

想い出

            大蔵 村田ふみ

 漸く愛らしさを増して来た生後五ヶ月の長女と共に夫を中支の戦線に送ったのは十八年(1943)の秋九月中旬だった。無事復員する迄の二年八ヶ月は忘れ難い思い出を残して……。
我暫しと吾子を抱きて佇(たたず)めど見返りもせで夫征きたり
われ父の愛情其のまま受けつぎて吾子慈しむ夫征きてより
待ちわびし征きたる夫の初便り心せわしく開きてぞ読む
日に増していとしさ増す吾子いだき一目なりとも見せ度しと思う
逝く秋にはらはらと散るわくらばのなぜか淋しく夫の偲ばる
暫し見ぬ夫の写真なつかしく今宵しみじみ灯下に見る
冷えびえと夜気をふるわす汽笛に遠く思いは夫の身にやる
なつかしき夫の俤(おもかげ)しのびつつ溢れるこころに便りしたたむ
ばんざいの声みやしろにこだまして今日も出で征く召されし兵は
軍事便久しく絶えし此の日頃古き便りをくり返し読む
万感を捨てて励まんひたすらに軈(やが)てあぐべき勝鬨(かちどき)のため
我が希望ほほえむ春は遠くとも貫き抜かん心の冬を
よちよちと歩く姿も愛らしくあゆみおぼえし今宵嬉しき
 種々の思い出を心の内に残して、早や終戦後十三年、戦争の面影すら感ぜられない此の頃、でも私達の心の内には、あの恐ろしい悲惨な戦い、そしてあの出征時の悲しい切ない別離のつらさ等々、第二の誕生日とも言うべき無事復員したあの日の喜びと共に生涯忘れる事は出来ない。
 二度とあの戦いのもたらす悲しみは味わいたくない。特に農村の家族制度と忠義の押しつけの様な軍国主義との板挟みにとなって、可弱い女の心と肉体とで体験したあの頃の思い出、もう私達だけで沢山だ。我が子にも孫にも永久にあの戦いの怖さ辛さを味わいさせたく無い。少しは物資に不自由はしても、明るく楽しい民主主義、そして戦争の無い平和な日々が続いて欲しい。永くながく永久に平和で有ります様にと願わずには居られない。

菅谷地区婦人会『つどい』創刊号 1958年(昭和33)11月
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