第6巻【近世・近代・現代編】- 第8章:女性の活動
菅谷地区婦人会『つどい』創刊号1958
旅行の思ひ出
大蔵 金井とみ
昨年(1957)九月二十九日午前六時大型バス三台に分乗、一路八王子方面に向い、車中賑やかに神奈川もすぎ大磯に出る。此のあたり大雨にて海岸も殆ど見えず、やがて小田原に着き昼食、ここで三車の人々と始めて顔を合せる。一休みして出発、間もなく箱根山に差し掛る。天下の険と歌われた箱根の名所や十国峠を楽しみに来たが、雨のため霧に包まれた山々がかすかに見えるばかりで惜しかった。軈(やが)て車は芦の湖の辺りを走る。ここで一句作ってみた。「芦の湖を霧に包むや箱根山」。箱根山とも別れを告げて之より熱海峠へと掛る。此の辺道が非常に悪く、車の踊る度に網棚に届くかと思う程ゆれて其の都度皆大笑いをした。ここは愛嬌道路だとガイドさんが言った。間もなく全員無事熱海に到着、常盤館に案内された。早速各自のへやに入り一風呂浴びて一日の疲れを休め、新館の二階でテレビを見ていると夕食の迎へが来た。大広間に通され種々なる御馳走に又皆様の歌合戦を聞き、室に帰り窓辺の椅子にもたれて熱海の夜景、ネオンの町に何とも云えぬ美しさを感じた。そして波の音を枕に聞いて夜の楽しい夢を結んだ。あたりの人の声にふと目を覚せばすっかり明るくなっていた。皆が入浴を始めたので私も食前に入浴をすませ、記念撮影をする。午前九時三十分旅館を後に二日目の楽しいバス旅行を始めた。熱海海岸を一巡りする。今日も小雨が降っていた。海の遠くに初島がかすんで見えた。
菅谷地区婦人会『つどい』創刊号 1958年(昭和33)11月
「初島もかすかに見える小雨降る」
海岸とも別れを告げてみかんの山を見ながらやがて江の島に着く。此のあたり雨もすっかりやんで見渡す限り広い海にカモメが高くとんでいた。海岸でお弁当を頂き桟橋を渡って島の中程迄遊びに行き、再び海岸に来てゆっくり休み、広い海面をじっとながめた。打ち寄せる小波に身も心もすっかり洗われて、清々しい気持で又バスに乗った。