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第6巻【近世・近代・現代編】- 第8章:女性の活動

第1節:婦人会

菅谷地区婦人会『つどい』創刊号1958

母親と教師との懇談会記録

           八月二十七日 於 菅谷小学校

第一分科会
  家庭教師として母親はどうあるべきか

一、兄弟けんかについて
1.長い休み中が多い
2.独自の意見を持っているので止めるのは無理だ。反省させるように仕向ける
3.母親が口やかましい
4.小さい内はとめられるが大きくなっては各自にまかせる
5.祖母か可愛い子の肩を持ち時には家庭の不和を起す
6.年令的に接近している時に起る
7.第一子が優秀の場合起りにくい、下の子が能力の秀れていると起り易い
8.兄弟げんかは買ってもしたい
9.家の中の人間関係をどうするかは母親の責任である
二、反抗期の子供の取扱い
1.社会のしくみ、人間関係を理解する出発点で大切な時期
2.時期を待つことである。時には強い叱責も必要だし急所急所は指導してやる
3.不満をきいてやる(子供扱にされる。馬鹿にされる等)
4.それるとグレン隊に入りやすく、その期間中あやまちを犯し易い
5.道徳教育の時間に反省するよう指導して欲しい
三、ほめ方と叱り方
1.低学年では賞めるとよいが高学年ではおだてにのらぬ
2.子供の性格によるから適宜に使うのがよい
3.感情で叱かるのが最も悪い(母親にそれが多い)
4.大きくなっては叱るにもほめるにもうっかりしたことは言えない
5.知恵の足りない子供でできるだけほめてやるのがよい
四、母親自から勉強する
1.忙しい中からあらゆる機会を捕へて勉強していこう
2.母親学級その他あらゆる会合にできるだけ出席して社会的知識を豊富にする
3.母親としての在り方、子供のよさを発見して導き、意志さえあれば乳房をふくませながら新聞や、ラジオ等により一日に少しづつでも前進することができる
4.子供の学習を見てやることによって又は子供の日記などを見ることによっても母親は啓蒙されてゆく
五、宿題について
1.夏休み、朝とはいはず気の向いた時が能率的
2.小学校生徒では学校から帰ってすぐさせる。予習よりも復習を
3.用事をいいつけると宿題を口実にする
4.参考書、答の出て居るものは感心しない。全科的参考書*1のようなものはすすめない

第二分科会
 子供のしつけ

一、言葉づかい
1.方言でなく標準語に親しませる
2.誰にも共通した正しい言葉づかいを
3.家庭に帰って言葉がくずれる。その反面又学校で友達から悪い言葉を教えられてくる
4.僕、俺よりも「私」にしたい
二、小づかいについて
1.こづかいの量と与え方
 先生から額をさだめてもらいたい
 一ヶ月の総額を与えて経済観念をもたせる
2.金銭出納簿を記させて家の者に見せる
三、読書について
1.喜んでよむ本−漫画
 人を殺すような悪い漫画は止めさせる
2.読書力を持たせたい
3.漫画の長短 長 語いが豊富になる
       短 長編文が理解できなくなる
四、年令に応じた仕事
1.学年に応じ季節によって仕事をさせる
2.子供と話し合って分担をきめる
3.仕事をやらない理由を見極める
4.子供も一家の構成員であることを認識させる
5.男子も女子と同じように掃除其他をさせる
6.六年位になれば風呂沸し、朝の掃除、飼育、子守、お使い、家事の手伝等
五、どんな人間に育てるか
1.学校の成績によらず自分というものに自信を持てる人間に
2.勉強以外の個性を伸ばすようにしてやる
3.如何なる場合もまじめであるという事
 最後に先生から読物として「子供のしあわせ」「母の友」など学校で扱うから読むようにと、おすすめがあった

第三分科会
  子供はいつどこで教育されているか

司会 テレビ、映画、読物について話を進めていったらどうか
吉野 根岸さんに社会教育の観点からききたい
根岸 家庭・社会の教育はどうするか全般に亘って進めていってはどうか。赤胴鈴之助は教育的にはどうか
吉野 赤胴マンガなどにも限度が必要だと思う。夜十時頃迄もテレビを見に飲屋の方へ出かける事には大きな問題があると思う。
根岸 赤胴の内容はどうか
PTA会長夫人 赤胴の内容は悪くないと思う
吉野 時間についてはどうか
根岸 区切る必要がある。深夜までの放任は親の監督不十分といえると思う
松浦 私は夜は外出させない事にしている
吉野 結局おそくは出さないことがよい
P夫人 学校では先生の、家庭では親の責任である。親の方でも時間を区切って見せるべきだ。見せる方でも切りなしに見ていられては迷惑だ。
吉野 このような現象が続けば立場上親の方へ申入れをしたいと思う
根岸 商魂たくましい世の中だから気をつけるべきだ。子供はどんな映画を見るか。
中村 子供は子供なりの「おとらさん」というようなものをえらぶ
根岸 子供は大人が考える程ラブシーンの情感は感じない。恐らく思春期の青年が悪影響を受けるのだらう
吉野 一番よいと思うのは教育的なフィルムを回を重ねてやるのが望ましいと思う
志賀・根岸 六年の子供だが、漫画を見て困る。どうにかならないものか、読書力がないから漫画を見るという記事があったが、お母さんから結束して抗議したい
P夫人 子供は漫画ではあき足らず、よい本を選んでいくようになると思う。それに教育的な本は高価だし、マンガ本は安いし、それらも影響するのではないか
[ ]子供によい本を読んでやるのはよいが、母親にはその暇がない。宿題さえ見てやれない。
市川 「子供の幸せの本」を今日はこの頁、次の日は別の頁と読んでやるようにしたらよいとおもう
根岸 私も同感で、そういう読み方を身につけさせれば自然子供は自分で選択して読んでいくと信じる。蚕も「こばかひ」*2が大切なように子供も幼児からのしつけが大切だと思う。教育は学校だけにあると思うのは大間違いである。今日の会合にも蚕の仕度*3で出て来ないのは、自分のおこさまより、蚕のおこさまの方が大切だからと思う(一同爆笑)。農家では常に経済が先行しているから、教育もなるべく安上りの方がよいというので、国定教科書が歓迎され、勤評などもその点から賛成で、今の教育に対する反感は大きい。
吉野 どうして安い教科書を出さないのか
荻山 日本では数ある会社の教科書を地域に即して選らんでいる。小さな会社の教科書は、翌年はつぶれて他会社製品となるので、新しく買う事になる*4
吉野 今の教科書に対する批判は、皆経済的観点から出ている。小川から菅谷に来るにも新らしく買うということになるからだ。しかし九州でも北海道でも同じ物をというわけにはいかぬ。
吉野 教科書問題については、政治的な思想的な背景が根を張っている。文部大臣が変われば、教育内容が変るというのは国民を馬鹿にしている
根岸 教育は人間完成だから何時も変る事はないと思う
P夫人 教科書の問題はPTAの機会を見て先生から説明してもらいたい
吉野 月刊雑誌はどんなものがあるか
[ ]学習、マンガ王、少年、少女、なかよし、りぼん、冒険王
根岸 子供がラジオをかけたまま勉強しているが頭に入るかどうか
[ ]入らない。子供に聞いても入らないという。
市川 一般にマスコミといわれるものから子供を守るのにはどうするか
吉野 結局は親の自覚であろう。子供と共に勉強することであると思う。
根岸 私も同感で今の母親は子供に教えられ乍ら進まねばならない。それでないと子供から取り残される。
吉野 母親にお願することは新聞を読むこと、子供と一緒に歩む事だと思う。
根岸 ラジオでは朝の時間に、とてもこくのある放送があるが朝は多忙で聞いて居られない
吉田 私の家では家族会議を開いているがよい効果が得られる
吉野 中三の長男が父の収支について色々の質問をするので困るが、私に反省の機会を与えてくれる。毎学期一回位はこのような会合を是非とも
P夫人 皆さまの声があればもっと数多く開かれると思う
司会 「結論」赤ちゃんは生れる前から胎教を受け、生れたとたんから教育が始められる。入学前は家庭内で目で教育され、入学してからは学校で智の教育を受ける。道徳教育は家庭で躾けられるのであるから、家庭の母の責任は重大である。母親のたゆまぬ勉強こそが教育の根本となるので、つとめてラジオ・新聞・読物などを通して学び、子供達におくれをとらぬよう心がけなければならないと思う
  当日婦人会員各字出席者数
菅谷  二二名   川島  一三名
志賀  一七名   平沢  一八名
千手堂 一一名   遠山   八名
大蔵  一五名   根岸   二名
将軍沢  四名   合計 一一〇名

*1:教科書の全科詳解。虎の巻。教科書にある問題の解答や言葉の読みや意味・訳などが収録された参考書。教科書の予習・復習が安直(あんちょく)にできることから、「アンチョコ(安直)」とも呼ばれた。
*2:ふ化してから二齢までの時期の蚕のこと。
*3:春蚕、夏蚕、初秋蚕、晩秋蚕、晩々秋蚕の内、8月下旬では晩秋蚕をさす。
*4:教科書代や教材費は保護者負担なので、違う出版社の教科書になると、前年使った教科書を譲り受けて再利用できず新たに購入することになり、家庭の出費がふえて困るという不満。

菅谷地区婦人会『つどい』創刊号 1958年(昭和33)11月
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