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第6巻【近世・近代・現代編】- 第7章:文芸・学術・スポーツ

第1節:俳句・短歌

短歌

山下たえ『われに詩あり』2

旅の思い出

バス旅で 登りつつ行く 湯殿山
       車窓に眺む 残雪の影
羽黒山 拝して下る 石段の
       フクベ模様で 疲れ紛らす
月山を 上り行く坂 石段の
       友と歩みて 年の差覚ゆ
最上川 擦れ違いたる 船と船
       手を振りながら 笑顔去り行く
最上川 川面に写る 若葉の景色
       紅葉の秋 目に描きつつ
遊覧船 乗って楽しく 五月晴れ
       最上流れる 昼の一ト時
清清し 紙の御前に 額突きて
       神秘あふるる 柏手の音
湯の宿で 風呂につかりて ほのぼのと
       幸せ感じる 春の一時
薄暗き 茂れる森の 奥深く
       武将眠れる 御社拝す
古都の山 登りて 霞み深くして
       唯耳に来る 山川の音
妻沼にて 二泊の宿を 後にして
       深み行く秋 車窓で眺む
湯どころで 友と楽しく 旅の宿
       苦労忘れて 演歌唄えり
温泉に 浸りて友と 語り合い
       湯煙あびて 命の洗濯
湯につかり 廊下ずたいの 窓辺より
       軒場に下がる 氷柱眩しく
湯の町を 浴衣着替えて 散策の
       下駄音高く 坂道下る
四万の町 見上げるような 岸壁が
       雪を残して 空に聳える
夫婦にて 仲睦まじく 年老いて
       札所巡りの 五月晴れかな


亡き人々を偲んで

テッセンの 花咲く季節 思い出す
       永久の眠りの 夫在りし日を
盆 迎え 初めての夢 出会った父に
       後ろ姿の 淋しさみゆる
悲しみを 伝える如く 霧の中
       亡夫の顔の 夢の悲しさ
今は亡き 姉の姿を 思い出す
       客を見送り 縁側に立つ
限り無く 疲れ果てたる 病床の
       姉を見舞いて 涙溢れる
亡き姉の 心の温もり 忍びつつ
       思い出遠き 幼子の頃
今は亡き 姉を忍んで 思い出す
       心の温み 今もこの身に
我老いて 何を思うや 朝夕に
       昔懐かし 父母の面影
水清く 都幾の流れも 穏やかに
       灯籠流して 武将の供養
流れ来る 夏の川辺に 影写し
       御霊見送る 灯籠流し


山下貞さんを偲んで

安らかに 眠ってくれと 枕べに
       手を振るわせて 花をたむける
友去りて 溢れる涙 押さえつつ
       永久の別れの 霊柩車見送る
春雨や 読経流れる 庭先の
       別れ悲しく 柩に縋る
空しさが 思いの隅に あるときは
       心静かに ときを(月日) 過ごせり
流れ来る 月日忍んで 思い出す
       友在りし日の 笑顔淋しく
今は亡き 友を慕いて 思い出し
       四万(温泉)で唄った 歌声に泣く
梅の香が 漂う静かな 春の日に
       八十路の坂越え 友は逝りゆく
友と居た 在りし日忍び 墓参して
       紫煙渦巻く 晩秋の空に

山下たえ『われに詩あり』 2000年(平成12)2月
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