第6巻【近世・近代・現代編】- 第7章:文芸・学術・スポーツ
短歌
故山
荒みたるはたしずみたる吾が胸を
いつも黙して護りこしかも
雨煙る山は應(こた)へずさ緑の
傾斜(なぞえ)おほらに春たたむとす
外国(とつくに)の旅の客舎にいく度か
汝の山容(すがた)を夢にみしかも
祖父植えし杉の木立は鎮もりて
明治のいのちたゝえおるかも
ふたたびは見(まみ)ゆることの叶うまじ
悲しみ秘めて相(あい)植えし杉
(弟の渡伯記念林)幽情
刻む音はむごけきものか待つ胸に
一秒一秒痛みとほれり
よりそひて道を歩めばあが胸の
高鳴るひびき君知るや否
あが胸の痛みなぐさむ人ひとり
この空のもと住みておはすも
武蔵野の原の小草におく露の
いのちあはれといねがてぬかも雄の子われ
雄の子われ静かなる日は山の間の
淵の如くに黙しあるべし
雄の子われ怒れる時は火(ほ)の山の
火柱となりてとどろきわたる新年
あら玉の年は明けきて武蔵野に
きらめく光さしわたるかも自戒
何故にあが胸いたむかきみ知るや
歌集『故山』関根茂章, 1974年(昭和49)2月
きびしき誇りそこなはぬため
うつそみは哀しきものか耐え耐えて
大らかに行かむますらをのみち
※1973年(昭和48)以前の38首から。「幽情」は昭和20年代のもの。