第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし
冨岡寅吉日記
十月一日 土 くもり
雨もすっかり止んだ。昨夜、観音様へ泊る。九人で映写機なしに行く。松山会館で「風の子」を見る。興行部へ勘定、大人二九一、中人一九、小人七八。十二時過ぎ帰宅。金井宅で精算する。支部へ六〇〇〇円位残る。思ったよりうまく行けた。今夜、常会の予定。向徳寺の普しんしゅん工祝なり。以上
十月二日 日 晴
映画のつかれがでて、すっかりねこんでしまう。目かいつくり。たてのひねが厚過ぎた。祖父さんも手伝って呉れて七ツ仕上げた。夜、金井君と礼参り。木闇方でビールを御馳走になる。
十月三日 月 晴
草刈りに行く。ずいぶん冷たくなった。目かいのたて割り。竹が悪い。午后、役場へ金井君と行き、映画の税金九一五円納める。大人二五円、小人十円。大人四十五名、小人四〇名の届出で。金井君わ体協の理事会に行く。畠山の博労きた。以上
十月四日 火 くもり・雨
目かいつくり。九時過ぎに繭を出荷。雨降りだす。一等七〆六六〇匁。いづみやでズック一足三二〇円也。午后、目かい九ツ仕上げ。目かご五升がま用一ツつくる。以上
十月五日 水 雨
朝から雨。草を少し刈る。肥引きざる作くり。たて幅二分五厘、長サ三尺六寸。一尺で腰をおこす。高サ一尺。六ツ始め、午前中、底をつくる。夕方までに六つくみ上がらなかった。一日中雨降り止まず。七時に停電す。丁度日記をつけてゐる。以上
十月六日 木 雨 十五夜様
今朝も雨。草刈りの人は一人も居ない。肥引きザル作くり。今日のは皆形良く出来た。夕方までに籠をきせた。今日も一日中、雨降り止まず。青年団の常会。村民体育大会の選手人名ぼ作制【製】。以上
十月七日 金 晴
昨夜、村民体育大会の選手選出常会。字の役員も参集した。肥引きざるの仕上げ六ツ。早昼飯で将軍沢へきのこ取りに行ったが七五三氏は午前中でてゐたので留守。一人で歩いて少しわ取れた。さんま、米と交換す。以上
十月八日 土 晴
鎌形へ乾燥繭持ちに行く、二二一・六五銭。自転車のパンク、植木山でハル、三〇円。吉野勇作宅へも伺う。作報で陸稲の坪刈り。陸稲刈り。粳約半分刈り中止。菅谷へ大麦二俵持って行き、精粉を持って来る。中島高治さんへ農電のメートルを依頼する。夜、学校の役員会議へ出席。山王前の大畦かけ。小生、未だ万能持たず。以上
十月九日 日 くもり・雨
中島高治さんが電気工事にきて呉れた。青年団で競技練習。十時頃出席す。だいたいの種目、午前中おわる。午后、金井支部長と茶菓買いに行く、一人三〇円。唐子の菓子屋へ十七日の慰労会の菓子注文す。夕方より雨降りだす。青鳥の西田博労さん、馬見にきた。
十月十日 月 半晴
馬屋の肥だし。父、道ぶしん。さつまほりに行く。約四〆ほる。田の糯を約一畝刈る。午后、父、橋かけ。菅谷へ行き中島と二人で大野へおくる下駄(二百五拾円)一足、下駄源さんに注文す*1。新聞配達。今夜々警だ。新聞代集金。
*1:奥平源太郎。結婚祝いに下駄を贈る事にしていた。
十月十一日 火 晴
荷縄ない。南原の甘藷ほり。二さくで一俵ない。十二さくほり五俵の予定。サイレン鳴る*1までほった。さつまのどろおとし。鎌形落合の家へまき三〇束買いに行く。種子の良い*2まきだ。以上
*1:サイレンが十二時の鳴った。
*2:ゾウキ(雑木。くり、かし等)でなくカタギ(コナラやクヌギ)の薪。松は油煙がでるのであまりもさない。マツマキと言って馬鹿にした。
十月十二日 水 くもり
草がない。供出の甘藷俵、五俵こしらへた。山王前の大畦かけ。一号畠の陸稲の刈干し*1を返す。午后、おかぼ上げ。田の糯もあげる。つゞいて脱穀す。約一時間で〇・四K使用した*2。陸稲も少し脱穀したら停電した。隆次旅行、軽井沢行き。以上
*1:陸稲は刈って田へ横に寝かしておいた。
*2:電気のメーター。
十月十三日 木 くもり
朝めし前、下肥のかい出し。陸稲の脱穀、一寸と停電した。午后二時頃、脱穀おわり。山王前の大畦かけ。今日やっとおわる。玉川へ新聞代納入。十月分追加四部一六〇円。十一月分八七部三四八〇円。隆次を迎いに行く。以上
十月十四日 金 くもり
ひどい草を刈る。目かいつくり。悪い竹だ。午后、体育会の準備委員会だが欠席す。目かい九ツできる。一日中陽が出ず、ほし物もでず。父等、坊の上一号畠の畠耕い。以上
十月十五日 雨・くもり
四時起床。目かい二ツ組む。雨降り。菅谷へ使に行く。貯金払下げ二〇〇〇円。貯金債券十五円券八枚で七一円二〇銭売渡す。午后、菅谷へ亦行く。押麦出来て居ない。帰りに竹本の堀口氏に逢い、家へ連れてきた。夕方、雨も上がり天気も快復に向いそうだ。明日も村民体育大会。字より青年団へ小籏代、金井の電車賃共一〇〇〇円。スパイク代含む。
十月十六日 日 晴
昨夜雨だったが今朝わからりと晴れた。秋の良い日だ。村民体育大会も大変好天気。九時頃開始。用具係を受持つ。すべての競技順調に行く。一位菅谷、二位鎌形、三位平沢、四位大蔵、五位志賀、六位千手堂。青年の部、一菅谷、二鎌形、三大蔵。夜、字の慰労会へ招待さる。以上
十月十七日 月 晴
七時の電車で松山税ム所へ行く。竹工組合長の証明書が用なので祖父さん、小川へ貰に行く。午后、父が税ム所へ持参す。一号畠の畠耕い。昼休みに唐子へ菓子持ちに小林、金井両君と行く。五〇円袋、四十人分。六時頃より青年団の慰労会。酒三升、サイダー二〇本(井上より)、ショウチュウ竹本屋より一升。皆良くよった。金井支部長と根岸観音の芝居の前売券の分配、各役員へ。十時過ぎにおわる。以上
十月十八日 火 晴
朝早くから籾すり、精米。午后、南原のさつまほり、約四俵。すけ帰宅す。共組へ押麦持ちに行く。小雨降る。停電で全部仕上がらなかった。以上
十月十九日 水 雨・くもり
朝から雨。精米をする。父、実行組合の方へ行く。きのこ取りに行ったが、千本二株取っただけ。植木山から神戸まで歩いた。午后、菅谷へ使に行く。中島より大豆油一升借りてきた。小生の保険払戻し九五円〇〇。以上
十月廿日 木 晴 根岸観音様
お庭草(にわくさ)*1に行く。餅つき四パリつく。西原へ里いもほりに行った。こんにゃく玉を洗いする。少し手がかゆい。午后、陸稲あとを耕う。全部耕い切った。吉野勇作君、中島金吾さんと二人で夕方寄る。良い天気も下り坂となる。
*1:大蔵神社の祭典のために幟をたてたり、掃除をしたりすること。
十月廿一日 金 小雨
須江の母、昨夜おそくなってきた。■川みさよの歌劇、観音様境内にあり。家中見物す。午前中、家でぶらぶら。午后、玉川の前田店へ一部申込みに行く。小雨降る。青鳥の西田家畜商、神戸の人を三人連れて馬見に来た。以上
十月廿二日 土 くもり 甘藷供出四俵
朝の中ぶらぶら。父、甘藷の供出。すけと馬小屋の肥だし。ながい肥*1だ。豚舎の前の落花生ほり。大へんなってゐる。前畠もとる。小つぶの方が収かくがある。終る頃、右足の親指の爪をはがした。午后、田の糯のかけいね。一号畠の陸稲も半分位刈ってかけた。夕方くもりで雨模様だ。以上
*1:山で刈った草(篠等)が入っているので。
十月廿三日 日 晴
昨日の天気もからりと変り、すっきり晴れて風のあるよい日だ。一号畠の陸稲干し。山王前のくわしばり。三号畠のくわしばり。今日ののど自慢合格一人だけ。題して川柳まんだん。高木久雄さんたゞ一人。桑園の手入れ。西田家畜商、今日当り来るかと思ったらこなかった。シールズ対オール日本戦は二・一でシールズの勝。以上
十月廿四日 月 晴
草刈りに行ったが草わ刈れず寒かった。今日も良い天気。桑園の手入れ。前畠と山王前。午后、油面。木綿をこぎ*1、耕う(山王前)。以上
*1:木綿を抜き取って撤去すること。
十月廿五日 火 雨
変り易い秋の空、今朝わもうくもってゐる。田の糯をあげる。帰りにわ雨。陸稲のかけた奴を上げ、つゞいて脱穀す。午前、少し停電す。午后は電力弱くなる。雨本降りとなる。いっそつくり。一三〇本つくる。三ツの鐘。今、十三夜を唄ってゐる。
十月廿六日 水 半晴
豚舎の前の掘返し。秋期【季】清潔。植木山へ新聞持ちに行く。歩きで新聞配達。丑造宅の犬を連れて廻る。約一時間三〇分で配りおわる。一号畠の陸稲返し。堆肥を運ぶ。陸稲上げる、四十三束。埼玉農業新聞社の社員、講読をすゝめにきた。以上
十月廿七日 木 雨
朝づくりに陸稲の脱穀。今日も又雨。午前中、一号畠へうないに行った。雨も降ってゐる。昼近くなり本降りとなる。一っそつくり。夜、青年団の常会なりしも、一つも決議にならず。夜警なり。夜も雨だ。以上
十月廿八日 金 雨・晴
台風来る。たいしたこともないが雨降る。六時頃、川へ行ったら橋はもう見えない。朝食後、金井支部長がきて、河原へ字の人が集ってゐると言うので仕度して行く。雨にぬれた。十時頃より西の方へ青空がでた。水もそうとう増加す。橋わ全然動かぬ。解散した頃、すっかり晴れた。午后、肥料取りに行く。硫安八〆四〇〇匁。燐酸二叺九〆五〇〇、石灰窒素一袋と四〆五〇〇、計金一六〇四・九〇銭。第二期所得税一九七五円〇〇、その他一三三六円〇〇。肥料取りより帰り、すぐ配合す。
十月廿九日 土 晴
朝づくりに一号畠うないに行く。午前中、早くうないおわり、前畠の木綿こぎ。午后、木綿あとをうなう。日没頃おわる。今夜、大野君に招待されてゐるので五時三〇分頃出かけた。西沢氏欠席。今月より報徳青年を読むことにした。中島氏へ一二〇円やるわけ。大いにごちそうになって帰った。十時帰宅。
十月卅日 日 晴
馬小屋の肥だし。里いもを入れる穴をほる。午后、南原のさつまほり。未だ畠がしめってゐる。約七俵ほる。日中は風つよく寒かった。以上
十月卅一日 月 晴
曽利町の近江と糯を刈っ干す。前畠の大畦くづし。午后、山王前をくづす。祖父さんも手伝う。今日も良い日だった。以上