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第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第3節:日記

冨岡寅吉日記

昭和24年(1949)9月


九月一日 木 晴
昨夜十時頃颱風来る。猛烈な風だ。雨量わ少い。今朝十時頃仕事に出かけて中島宅に寄り引き返した。午后一時の上り、おくれて二〇分頃。入間川はそうとうの水がでた。仕事の場はきれいに片づけてある。一本つくり、数野方へ休みに行き、うどんを御馳走になる。五時三〇分に仕事をしまう。夕方わ、ずいぶん涼しかった。すけ、お客に行く*1

*1:八朔の節句で、新嫁がショウガを持って実家へ帰る。


九月二日 金 くもり・雨
朝からくもってゐる。午前一本つくり、二本目を始める時、雨降りだし中止。一本しかできぬ。十一時頃雨になり、午后四時三〇分までひるね。五時の下りで帰宅す。


九月三日 土 半晴
五時三〇分起床。五明の家へ行ったらもう出発してゐた。村田の煙草を預ってきた。羽賀理髪店*1で顔のひげをそって来る(三〇円)。八時の上りで鯨井着九時。午前二本。むし暑い。午后三本、計五本できた。河原では牛車が砂利曳きをしてゐる。牛も苦しげだ。七時一寸前、仕事をしまう。節句のお客が土手を帰るのを見ると思い出すものあり。

*1:玉川村町田旅館の前にある理髪店。


九月四日 日 雨・くもり
朝から雨。竹を切ってきて目かいつくり。三ツ始めた。昼過ぎ、いくらか天気が良くなり河原へ行く。六米二本つくる。今夜も停電なり。


九月五日 月 雨・晴
昨夜も雨なり。今朝、河原へ行くのがおくれた。午前二本。昼喰いに数野方へ行く。午后三本、計五本。夕方は良い天気となる。今夜も停電なり。今朝、目かい三つ仕上げ、隣へ一ツ呉れ、光を一ツ貰う。関根へ二ツやる。


九月六日 火 晴
今日は秋晴れの良い天気だ。朝の中少し雲がでたので日中はてったりくもったり。午前一本。竹がなかなか来ない。午后三本、計四本。竹は丁度間に合う位だ。今夜も停電。モータ線を悪さして燈をつけた。すてきに明るい。夕方は久し振りの良い天気。今朝わ涼しかった。
★電燈の絵


九月七日 水 晴
秋晴れの良い天気。五時頃起床。早あさめしで河原へ行く。二本つくり数野方へ行ったら九時三〇分だった。関根に金がなく勘定は貸し。二時三〇分頃トラックで坂戸、入西、今宿、亀井を通り玉川を経て千手堂橋で下車、耕地を通り帰宅す。今夜、消防団の会議。豚を小山(こやま)*1の家畜商へ売る、九〆六三〇〇円〇〇也。

*1:入西村小山の小川泰三宅。


九月八日 木 晴
久し振りに草刈りに行く。ずいぶん涼しくなった。まきが刈ったのを入れてきた。父が大麦を二俵持って行く。あと押しをして九時の上りで鯨井へ行く。手本【元】に金なく二時間位待つ。十二時でも昼も喰せぬ。数野方へ行き、うどんを御馳走になり、午后二時頃まで話してゐた。川越まで歩ったが駅まで約一時間。四時三〇分嵐山着。山下明方の自転車を借用、五明まで使に行き、暗くなる頃帰宅せり。


九月九日 金 晴
草刈りから帰ったら関根で九米五〇のかごが一本不足と事【言】伝があった。十一時の上りできたら河原の仕事場をきれいに片づけてしまったので木工所のそばへ台を作くり、休まで台つくり。雷雲がでて少しの雨あり。かごを作くる頃はむし暑い。夜、隣へ話しに行く。山崎さんと云って上板橋の日通で【に】出ておられる。


九月十日 土 雨
関根方へ泊る。今朝わゆっくりねてゐた。勘定二五〇円貰う。九時〇一分の上【下】りで帰る。雨降りだした。小林茂夫君と金井勝治君、新聞代を集金してきた。午后わ六時頃までひるね。消防より三〇分【円】貰う。


九月十一日 日 雨
朝ねぼうをした。草があった。隆次と豚舎、馬小屋の肥だし。十時頃、千手堂の健治君、馬できて一寸寄った。午后わ雨でぶらつき。さん俵十五コばかりつくった。以上


九月十二日 月 くもり
朝の中、小雨。草が此の頃たまる。さん俵つくり。午前中三〇コ位つくった。午后、雨も止み、菅谷の方から鎌形廻り、吉野方へ寄り、明日東京へ行く約束をする。玉川の前田店へ新聞代納入す。ハッピー一ツ頂く。本郷の岡野座繰りやへざぐり一丁注文す。八〇〇円の所、内金三〇〇円入れる。五時頃帰宅す。


九月十三日 火 くもり・雨
六時十四分の上りで吉野勇作君と東京行き。九時頃大森駅着、森ヶ崎九時三〇分着。吉野の叔母さんの家へ行き御馳走になる。海へ行ったが舟が借りられず、すぐ東京駅八重洲口へ出て、日本橋の用事をたす(勇作兄)。三時、池袋着。日勝館で(尾上梅幸、花柳小菊。月方【形】龍【竜】之助)配役の「山を飛ぶ花笠」を見る。雨盛んに降ってゐる。五時四一分、池袋発小川町止りで帰宅。以上


九月十四日 水 くもり・晴
朝わ冷たい位だ。今日もさん俵つくり。だいぶ上手になった。午后も同じ仕事。夕方、馬の運動。始めの中、元気だったがすぐおとなしくなった。以上


九月十五日 木 晴
鎌が切れなくなった。さん俵合計九〇コ作くる。午后、押麦持ちに行き、草刈り鎌一丁八五円。岡松屋へも寄る。ほうきの枝を持って来た。夕方、馬の運動。以上


九月十六日 金 晴
勇作兄の田の廻り*1で草を刈る。早く刈れた。小豆後のふせ地*2。坊の上二号畠の甘藷蔓もち上げ。午前中、西原。つゞいて南原もおわる。今日は馬が元気が良い。茄子、菅谷マーケット中村氏*3へ二百円也。

*1:天ずい。南はすぐ山(雑木林)だった。
*2:草が出ない様に土をかぶせる。
*3:中村巳平


九月十七日 土 晴
昨日のつゞきで草を刈る。橋場*1の人夫。午前中はひまだった。山下昭二君とセメンきり。久し振りに土方をやりなつかしくなった。月田橋の時や鎌形へ通った時が思いだされた。午后わ一生懸命できた。午前、富岡武夫方、午后村田礼助方よりさつまをを丁【頂】いた。以上

*1:山下にへいさん家の前。


九月十八日 日 雨
少しむしたと思ったら雨となる。機械で縄ない。午后、より口が故障して菅谷のブリキ屋へたのむ、二〇円。本団の部長会議、四時頃始る。六時頃おわる。鎌形から三名きた。


九月十九日 月 くもり・小雨
はっきりしない天気だ。朝から縄ない。祖父さんが手伝って呉れた。午后休み頃まで、すけが手伝う。今日、三玉なった。今夜、青年団の常会。


九月廿日 火 晴
蚕のえん台出し。縄を少しなう。山王前畠の豆こぎ、半分だけ。足踏機械でこく。昼休みに危険物片づけ。村田政(まさ)治*1、山下昭二、大沢知助、小生の四名*2。堀ノ内は八名位でやった。山王前の桑園の草むしり。ざぐり出来てきた。はづしわく一コ一〇〇円也。以上

*1:村田清治の弟。
*2:大蔵は上、下、堀ノ内の三に別れて、危険物を決められた場所の石棺に入れた。


九月廿一日 水 くもり時々雨
草もなくなったが今朝わあった。蚕の桑摘み。桑呉れ等した。新聞配達をした。根岸わ観音様に大勢いて良かった。胡麻を刈る。雨が降ったり止んだり。今夜、平沢支部主催の映画、菅谷製粉*1前にあり。宣久君と見に行く予定。

*1:小林才治さんがやった平沢にあった製粉場。


九月二十二日 木 雨
朝から雨なので草刈りに行かないと思ったが行く。縄ない。昼休みに社ム所で常会。映画の件。三時の上りで松山、大野興行部へ伺う。雨盛んに降る。「魔の口紅」、三〇日上映。入場券大人五〇〇枚、中人五〇枚、小人一〇〇枚依頼する。五時三〇分嵐山着。以上


九月廿三日 金 くもり・雨
昨夜々警だった。今朝、草刈り休む。胡麻の葉もぎ。なわないを少しする。台風向いた雲がどんどん西へ行く。午后、そうとう強い雨降る。夕方わ止んだ。桑切り。前の桑園のイチベーのうら*1をは切る。以上

*1:桑の木の先端。


九月廿四日 土 晴
昨夜、金井氏と小学校へ行ったら丁度、永井先生*1が宿直だったのでガリ板【版】を依頼し、招待状を印刷した。約一時間で終了す。九時三〇分頃、菅谷劇場へ行き、「恋の十三夜」を鑑賞してきた。フィルムが少々抜けてゐる。十二時帰宅せり。今日わ桑取り、肥積みがへし(甘藷の床)、山王前の豆こぎ。今朝わ冷(すず)しかった。以上

*1:永井教善。


九月廿五日 日 晴
朝、つめたくなった。まき、大宮グランドへ選手のつきそへとして行く。くわ摘みの手伝い。大豆を足踏でこく。午后、理髪へ行く、五〇円。夕方も桑摘み。もう蚕のひきりがでてきた。以上


九月廿六日 月 晴
昨夜、社ム所で映画の準備。子供の入場券が来ないで作製す。十二時までかゝった。新田で草刈り。今朝はあった。招待状配布。十時頃より蚕の上蔟。午前少し、午后全部上蔟す、約五十五まぶし。豆うち。以上


九月廿七日 火 晴・雨
草があった。小麦の超過供出三俵、菅谷製粉倉庫。第一、十五俵、全部三等。半日かゝる。豆じのう。午后、雨降りだす。玉川の前田へ新聞の件で話しに行く。金井正二君、入場券の売上代。大人五六、中人四、小人一六。計金一九二〇円也。


九月廿八日 水 晴
根岸保平方へ行き、入場券大2中1枚売った。父とすけ、肥積みかへ。以上
将軍沢へ行き小久保代吉方へ一枚、七五三方へ小一枚売り、さつま等喰ってきた。午后、鎌形へ向かったが一枚も売れぬ。大久保さく方でゆっくりした。勇作方へ行き二人で菅谷まで一しょにきた。以上


九月廿九日 木 晴
祖父さんと向徳寺へ竹買いに行く。孟宗三本、真竹一束、計三〇〇円也。植木山の寅さん来る、牛の件。本畠村の畠山、清水小市宅を訪れた。約一時間二〇分片道かゝった。貯金払下げ四〇〇〇円。納め八六九円〇〇。以上


九月卅日 金 晴
金井宣久、山下三三男、小林茂夫さんと小生の四名で松山へ映写機持ちに行く。帰りわずいぶん暑かった。昼に廻った。奥田技師が来たのわおそかった。会場の準備わ忙しい。木戸を受持つ。机等の仕度間に合わず、てんてこまいした。五〇〇人以上の入場者あり。金井正二、宣久、三三男、小生の四名、観音様へ泊る。映画の終るころ、雨降りだす。

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