第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし
冨岡寅吉日記
八月一日 木 くもり 205
朝雷だ。月田橋のこっちで草刈り。雨が降ったり止んだり。ひる休みに新聞配達。夕立あり。雨も降る。よくねた。植木山落雷す。大水が出る。
八月二日 金 雨 206
草刈り中止。朝ね坊す。蚕用のしまだ編み。午前中一ツを少し。午休みに金井宣久、愛輔君の家を廻る。父、遠山水車へ。以上
八月三日 土 晴
ヒイラギ山*1で草を刈る人は四人ばかりゐた。菅谷へ使に行く。大工の丑さんに頼れた竹割り一日中。うまく割れたと思ふ。父、水車より帰る。以上
*1:談)都幾川の左岸、鞍掛橋のすこし上流の山。
八月四日 日 晴
昨夜、村田、山下君と横町の天王様へ行く。小峰君居りしが?なり。 今朝もヒイラギ山で草刈り。柴田方に依頼され小林元一郎(げんいちろう)さんと広野へかまを持ちに行く*1。一時に帰ってくる。ドル入れ*2を交換す。粉四百匁。丑三さんの竹割り。休み頃より。以上
*1:談)醤油製造のための大豆を煮る釜を広野から持って来ること。
*2:談)がま口のこと。
八月五日 月 晴
将軍沢山で草刈り。竹割り、まき割り。農業会よりにしん、こんぶ、こうなごの配給あり。班長さんより写真がくる、九枚。以上
八月六日 火 くもり・雨 207
昨日の方で草刈り。田の草取り。三番ご。雨がふったり止んだり一日で終る。千葉行きは中止。以上
八月七日 水 晴 208
山草刈り。物置の掃除。米ツキ。農業会へ小麦一俵持って行き、大麦を持ってくる*1、九円八〇銭。麦糠、馬へ配給になる。以上
*1:談)小麦は粉に加工してもらうため持って行った。大麦は押麦にしてもらったものを持って帰る。当時のご飯の米と麦の割合は米と麦が半々は良い方だった。
八月八日 木 晴
唐子河原で草刈り。大変刈れた。午前中、薪(まき)つみ。午后、薪割り*1。明覚の武田の兄寄る*2。ショウユのこうじねかし。
*1:談)冬使う薪の準備。
*2:談)武田は同年兵。この人の親が運送引きをしていて、しょっちゅう寄っていた。
八月九日 金 くもり 209
唐子河原の下で草刈り。馬小屋の肥出し。まき割り。雨降る。以上
八月十日 土 半晴 210
隆次を連れて草刈り。縄ない機械がきたが具合が悪ひ。馬屋の曲りをおこす*1。まきつみ。夕立。猫、小林理一郎君*2がもらいに来る。
*1:談)馬が蹴って傾いてしまった馬小屋の柱をなおすこと。
*2:談)鎌形の人。
八月十一日 日 晴
草がないので方々を一廻りする。縄ない。菅谷の叔母の家へ茄子を持って行く。午后も縄なひ。父実家へ。以上
八月十二日 月 晴 211
唐子河原でくさ刈り。土だらけだ*1。縄ない。午前中、一玉早く終り、午后も一玉なえた。より口*2が破損した。以上
*1:談)草が汚れていたこと。
*2:談)縄ない機械の藁を入れるところ。
八月十三日 火 晴
隆次を連れ唐子耕地の下(しも)で草を刈る。縄ない機械の具合とてもよろし。まき割りも終る。一日に三玉なふ。よい日であった。以上
八月十四日 水 晴 212・213
四時おきをして草刈り。六時前に帰る。午前中下肥出し、一号畠の甘藷へ。午后、稲の葉寄せ虫*1取り。
*1:談)つとむし。イチモンジセセリの幼虫。当時は農薬もないので、熊手でかっぱいて落としていた。。
八月十五日 木 晴
昨日の方で草を刈る。午前中、洗濯。田の虫取り。父、下里の盆でお客に行く。午后も虫取り。以上
八月十六日 金 晴
根岸耕地で草刈り。昨夜、社務所に座談会あり出席す。いねのむしとり。床やへ行く。千葉の岩永さん*1より小包とどく。以上
*1:談)召集できていた戦友。
八月十七日 土 晴
農士学校の山で草刈り。馬小屋の肥出し。松山へ使に行く。時計やへ寄る。七タヤ祭り。午后、遊んで廻る。以上
八月十八日 日 晴
農士校山で草刈り。とても大へん刈れる。縄ない一玉。交換所*1で鍋を取りかへる。粉一〆五百匁。
*1:談)物物交換所。菅谷の細谷信一郎宅(現美松)でやっていた。
八月十九日 月 晴
隆次を連れて前(まえ)の方*1で草刈り。馬鈴薯の供出に行く。大田の虫取り。熊手でやる。具合良し。午后やる。
*1:談)坊(ぼう)の上(うえ)のあたり。
八月二十日 火 晴
将軍沢山で草刈り。いねの虫取り。午后、蚕の上蔟約三〇マブシ。塩五升交換す。
八月二十一日 水 晴
昨日の所で草刈り。早く帰る。麻の皮むき*1。午后、いねの虫取り。
[落書]残暑厳しき砌
*1:談)大麻。荷縄をなうのに使った。
八月二十二日 木 晴・夕立
午前中、大豆を播く所を耕ひ川へ魚取りに行く。昼休みに社務所に盆踊りに付き相談あり。役員、松山へ飛ぶ。待ちに待ちし夕立あり。以上
八月二十三日 金 晴
土手で草刈り。とてもよいおしめりなり。金井亀二宅で盆踊りの万灯こしらへ、花作くりの竹割り。午后マンドウへ電燈を入れる。四時頃迄やる。空もようも良好なり。菅谷で盆踊り。以上
談)この頃のお盆は月おくれの十日おくれだった。
八月二十四日 土 晴
昨夜、菅谷の盆踊りへ行き大いに張切る。今朝、雨あり。午前中、自転車のパンク張り。吉野君の家へたな参りに行く。
八月二十五日 日 くもり
嵐山発五時四十九分発にて班長の家へ遊びに行く。九時半着。ゆっくり御馳走になってくる。産物(みやげもの)も頂戴して来る。九時半、嵐山着。盆踊りを見る。
八月二十六日 月 晴
草刈り中止。初秋蚕の繭の出荷。四〆八六〇、金四八六円。以上
八月二十七日 火 晴
耕地で草刈り。社務所で常会。明晩、浅田茂先生の舞踊。一日中其の事に付いて飛び廻る。
八月二十八日 水 晴 212
耕地で草刈り。早く刈れた。午前中あづきもぎ。午后、松竹スター浅田茂氏の実演今晩行れる為の準備*1。盛大に終る。一時頃寝る。以上
*1:談)金井元吉さんの紹介で来た芸能人。ラジオに出たこともある。小林茂夫宅へ泊まった。『番場の忠太郎』をやった。
八月二十九日 木 晴
今朝も耕地で草刈り。午前中、昨夜片付け。昨夜の人出は大したものだった。午后、野口由次郎、山下丑三君と三人で鎌形へ電蓄*1返しに行く。以上
*1:談)山口とくやんと言う人が電蓄を持っていた。
八月三十日 金 晴
耕地で草刈り。昨夜、鎌形へ蓄音機針返しに行く。会議十一時半迄。大根まく所を耕す。午后、麦の配給、メン一人三本、針金一〇七円七〇銭。
八月三十一日 土 くもり
耕地で草刈り。午前、酒の配給一升、十五円。午后、平沢の家へバケツ修繕*1に行く。くさむしり。以上
*1:談)平沢の吉野幸吉宅。ブリキ屋・板金屋だった。