第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし
冨岡寅吉日記
十月壱日 月 半晴
受信 添田勇
まきの代理として新聞配達をする
草刈りかご2、子供用1ツ作くる
午后、祖父さん、菅谷へ行く。軍手配給七十銭。
金井貞次郎方へ目かい一
金井示夫方へ目かい(1)三円
草刈りかご(二)十七円
同右 子供用(一)七円五〇銭
計 二拾七円五〇銭
差引弐拾円五〇銭也
十月二日 火 曇・雨
受信 田中賢治 井上伊助
朝作くりに半ザルのアジロをつくる
三ツ。午前中、曇天なり。金井小市方へミソコシ二
昼休みに実行組合の班長集合して相談あり。半ザルを笠松先生に一ツ
夕方、神戸の三吉氏へ篭箕一ツ
半ザル、将軍沢の鯨井十郎氏へ一ツ
半ザル一ツ又作くる
十月三日 水 雨・半晴
発信 田中賢治
懐かしい貴兄よ 懐かしい貴女
雨模様だが降ってゐる
一人で味曽コシ作くり。うまく出来た
背負ひ篭作くり
自分は大した手が出せぬ
でもだいたい良く出来た
午后は晴間も見えてむし暑いと言っても過言ではないだらう 以上
十月四日 木 雨
茶ワン篭を始めから一人で始めた。丁度午前中に出来上がる
うまく出来た
午后、目かい作くり。祖父さんが割る側で組む。二ツ組み上げて、二ツ腰を起こし、夜四ツ腰を起こした
父、春蚕残金もらいに養蚕組合長宅へ
十月五日 金 雨
受信 斉藤玉治 父へ菅沼善一
発信 坂本義行 山口正男*1
昨夜は目かいを四ツ組み上げた
目かいのふちまき□出来上がり
戸口丑三氏へ二ツ、野口由次郎氏へ一ツ、斉藤トラ方へ茶わんかご一ツ三円
一日中雨降りで気持ち悪い
父へ菅沼班長より手紙がきた
小生へ 斉藤玉治君より 以上
*1:談)志願で来た同年兵。富山県立山町在住。現在でも年賀状のやりとりをしている。
十月六日 土 晴・曇
受信 宮本豊太郎 厚澤龍蔵
早朝めしで岡本君の家を訪ねた。彼は草刈りに行き、帰りがおそい
待って居てきのこ取りに行った
始めの中はない。岡本氏の縄張りの山へ行った「あるわあるわ」。夢の如くにある。目かいに一パイ取る
金井宣久君へ少しわけてくれる
畠山の博労のせがれきた
唐子飛行場へ米軍進駐。
十月七日 日 晴
発信 佐藤嘉信
からりとした良い日だ
軍衣袴の洗濯をする
シャツも二枚やる
まゆの毛羽取り。向徳寺より竹五本。六寸二本、五寸三本、四寸一本、計五本、四拾円
大豆こぎ。まだ青いのがある 以上
十月八日 月 雨
今日も雨降り天気なり。
仕事をするのがかったるい。畠山の博労に依頼されためん上げザル四、直径一尺二寸、外一尺三寸弐を作くる
茶わんかご二ツ 計四ツ
将軍沢の岡本徳方へ目かい1、くまで2、計九円五〇銭。新藤武治方へ目かい1
十月九日 火 雨
発信 岡田明
朝作くりに班長さんの家を廻る
茶わんかごつくり。四ツ出来上がり。新藤武治方へ一ツ、同戸口丑三方
午休みに社務所で常会あり
小生宅で実行組合で作付反別の割当あり。夕方迄かかる
一日中雨降りなり 以上
十月十日 水 雨
今日も雨降りだ
ナキリミ作くり。ヒネを割ってもらって一人で始める。午前中二枚。午后も二枚。全部同じ様によく出来た
作くり上げる。父、菅谷の方へ使に行く。実行組合で買った勝札七枚の中、二枚四等で十円があたってゐた
目かい、唐子沼坂上の人2、茶わんかご1
十月十一日 木 雨
又雨だ
茶わんかご一ツ作くり上げる
半目かいを始めた
昼の時、懐しき岡田君来る
二人で岡本君の家を訪ねて大いに御馳走になる。でも、雨が小止みとなり大きに都合よし。岡本君もあそびにきた。岡本君の家の千本汁*1、実にうまい。午后は休養なり
*1:千本シメジの汁。
十月十二日 金 晴
昨夜は岡本、岡田の両君が泊る。
雨もからりと晴れてよい天気だ。三人できのこ取りに行く。あまりとれぬ
岡本君の家で昼飯をやる
岡本と二人で岡田を送くって行く
帰りに床屋へ寄る
砂糖の配給、一人十五匁、六十二銭
今夜、鎌形へ行くぞ
十月十三日 土 晴
半目かい作くり
戸口丑三方二ツ、山下明方一ツ、柴田勝五郎方三ツ、金井栄一方一ツ、藤縄方二ツ
吉野勇作君の家へ遊びに行く、夕食を御馳走になり、二人で玉川へシバイ見に行く。一円也。帰りは、自転車をころがしながら? 来る
十月十四日 日 晴
班長の家を廻る
目かい作くり八ツ
夕方迄に組み上げた
豆じのうやる
甘藷の俵四俵作くる
昨夜のしばゐ、だいたい良好なり
しばゐよりも良いコトあり
吉野勇作君と一しょなり
十月十五日 月 晴
四時起床、守平と二人で横須賀行。菅谷発一番六時〇九分
無事、下宿の家へ着く
添田少尉殿のおくさんの宅、府川兵蔵宅をお訪ね、守平の組長沼田さんの家も訪ねた
夜は府川宅で添田さんと大いに話す。夕飯を御馳走になる
小母さんの家へ泊る
十月十六日 火 晴
小母さんの家で昨夜は花遊びをする
ゆっくり起きた。
府川宅のおかみさんと追濱の添田さんの家へ行き、すぐ添田さんの弟の稔宅を訪ね、守平と三人で海へ舟で行き、魚釣り。中々舟に乗った時はあぶなかったが、すぐなれた
おもしろくつれる。夕方迄
十月十七日 水 晴
昨夜は添田勇さんの家へ泊る。ちく音機をかける
朝食をして横須賀の不入斗【いりやまず】町へ帰り、小母さんの家で御馳走になる。色々と頂戴してきた。一時頃出発。電車こむ。菅谷迄、五時間かゝった 以上
十月十八日 木 晴
受信 岡田
今朝もゆっくり起きた
半日ぶらつき、添田兄弟と府川さんへ手紙を書く
午后、庭の廻りをきれいにする
受信 岡田明
今夜は十三夜なり 以上
十月十九日 金 半晴
受信 岡田
どうしても起きるのがおそい
目かい作くり。竹割りもうまく出来る。十一箇出来る
父、車へ行く。遠山
昨晩、和田の演芸会を見に行った。中々上手な者ばかりだ
大蔵で秋季清潔法実施。
十月廿日 土 曇・雨
父、昨夜遠山水車へ行く
神社の旗立て。幾人も来ない
目かい、金井猶次郎方へ三ツ、柴田一ツ、成沢力造一ツ、斉藤娘一ツ、将軍沢三ツ、野村トク一ツ、計十ツ
鎌形水車より粉五〆持って来る
吉野と二人で江綱【えづな】神社*1へ。そして馳走する 以上
*1:談)南吉見にある江綱神社。出征する時、武運長久祈願に行った。
十月廿一日 日 雨
雨降り。早く起きる。岡本君がきた
嵐山発七時〇九分、池袋着、渋谷着。玉川電車上馬下車。岡田君が渋谷迄迎えに来て呉れた。昼食をやり、三人で菅沼班長の家を訪ねる
夕方五時過ぎ迄、御馳走になってゐた。生麦、鶴見、品川、池袋
東上線十八時九 十八分発少しおくれて間に合った。雨も止んでゐた 以上
十月廿二日 月 雨
発信 菅沼善一 岡田明 佐藤嘉信
昨夜の家へ手紙を書き、靴みがき
四升入れの半ザル作くり四ツ
又も雨が降り気持ち晴々としない
半ザル四ツつくり上げる。大麦の配給三〇、五十〇十円〇七銭 以上
十月廿三日 火 雨
昨夜、支部長の家より大衆文学の本を借りてきた
半ザル一ツつくり上げた
ミソコシを始めた。十そこをつくる。中々まだ腰のいたいのがなれぬ
今日も雨降り 以上
十月廿四日 水 半晴
何時もながら起きるのはおそい
みそこしつくり。十出来上げる。学校へ会議に行く
目かいつくり
夜なべに三ツつくる 以上
十月廿五日 木 晴
風が強い。でも秋晴れのよい天気だ。昨夜は目かいを三ツつくる
今日も目かい作くり
もううまく出来る。全部で十三だ。夕方、夜にかけて五ツふちまきをした。祖父さん、午后、菅谷へ行く
父、社務所で相談あり。行く。小麦一俵供出するわけ
十月廿六日 金 半晴・くもり
朝から寒けを用する天気だ。目かいのふちまきをする
背負いかご作くり。中たけ一ツ
目かい、唐子へ二ツ、富七方二ツ、石や一ツ、山下暉夫一ツ、「富岡二三郎一ツ呉れる」
ミソコシ、金井栄一一ツ
半ザル、二三郎二ツ、野村とく一ツ
十月廿七日 土 晴
秋晴れのよい天気だ
大小麦の種子の配給あり
肥引きざるつくり。七廻りがよく出来、ヒネが良く散る。七ツ始めた
夜、菅谷のしばゐを見に行く
人ごみでしばゐは駄目と言ふわけ。家へ帰ったらまだ十時前であった 以上
十月二十八日 日 晴
どうしても朝起きるのがおそい。でも早起き会が始れば如何なりや?
肥引きザル、七ツつくる
今日も昨日に負けぬよい日だ
肥引きざる一つ。野村忠平方へ八円五〇銭
祖母しばゐ見に
十月二十九日 月 晴
受信 佐藤
今朝もおきるのがおそい
肥ひきかごのふちまき
全部で六ツ
五升がまのセンベイ一ツ。中々始めてとしてはうまく出来た
午后、いねかり。近江を
畠耕ひ。よい日である
添田実【稔】君来られ、駅迄送って行く
十月卅日 火 晴
まだまだ起きるのがおそい。今日は篭箕作くり
だいたい悪戸だけがむづかしい
六ツ。祖父さん、菅谷へ行く。万能の先がけ七円。吉野大尉の家へ、かごくまで七円
向徳寺より猛宗二本六円
十月卅一日 水 雨
天気予報があたりそうだ
篭箕作くり。昨日つくった奴へふちつけ、六ツ。植木山へ一ツ。それから四ツつくり、計十一出来た。一日中雨降り 以上