第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし
権田本市『吾が「人生の想い出」』
第三部 青年時代
こうして十二年(1937)一月になってからと思う。吾々も除隊出来るという話が伝えられた。予期しない除隊。同年兵でも内地に残った者は十一年(1936)十月三十日満期除隊していたわけである。
権田本市『吾が「人生の思い出」』 1989年(平成1)8月発行 43頁〜44頁
吾々の除隊には条件が付けられていた。次の通りである。初年兵が内地から此の兵舎に着いた後初めて交代し、内地帰還と云うのであった。
こうなると内地から来る交代兵が一日も早い方がいい。そう思っている中、十二年二月二十八日だったと思う。待望の交代兵が到着したように記憶する。とにかく一晩は歓送迎会のお祝いとなり、緊張し通した軍隊生活も遂に張りつめていた糸が切れたかのように酒を知って以来初めて酔いつぶれた一夜だった。
しかし点呼の時は不動の姿勢で報告したことは覚えている。以後ダウンして戦友のお世話になった……。どうして酔いつぶれたか? 原因はこうだ。自分は原隊当時から第三内務班育ち。しかも北支に行っても第三内務班にいた関係で縁は切れない間柄。そして北支では第四内務班付き。一ヶ班三十名からいて、二班分の相手から帰還を祝って酒を差される。差されればたとえ少しずつといってもかなりきいてしまったという事である。