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第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第2節:回顧録・作文

権田本市『吾が「人生の想い出」』

第三部 青年時代

軍隊生活

 尚、前は入隊時から一期までの様子を説明したが、今度は初年兵から二年兵になるまでのあらましを思い出してみる事にする。
 先ず平日の日課は前にも一寸述べたが訓練が終ってからの様子などから説明する。夕食後は毎夕靴磨き、兵器の手入銃剣等靴も自分と戦友そして班長。当番につかされると班長の分全部で六足になる。長靴編上靴一人二足ずつである。しかし此の手入時は兵舎の外で初年兵に取っては唯一の息抜きの場でもあった。
 たまたま自分達の中隊は側が酒保であった関係で初年兵同士で話し合っては「まんじゅう」などよく買って来た。そして無言でほおばったあの時の満足感は経験した者でないと一寸通じんかもしれん。そして入隊間もなく三種混合の接種あり。此の時は終日ねかされる。熱の出る者もあるがほとんどの者は特に変る事なく退屈の一日である。そんな時申し送りのように戦友「二年兵」が酒保から「まんじゅう」を買って来て、そっと毛布の中に差入れてくれる、これも又うまかった。注射で食べてはいけないので粥食の一日、上官の目を盗んでくれる訳である。
 「まんじゅう」の話で大分それたが夕食後入浴から馬の水くれなどの仕事もある。入浴も交代制で早い時と遅い時がある。時間は厳守、しかも石けん、タオルは必ず使用、時折り検査あり。我が中隊は風呂場とかなり離れて居り、従って上等兵の指揮で軍歌などうたいながら行進もさせられた。そして風呂場の前で解散、先ず人より先頭切る事に心掛けねばならない。
 と云うのは次の仕事、馬の水くれがある。ただくれるだけではない。一個班三十人中十五人の初年兵に馬は二十頭居る。若し二年兵が二頭も水をくれて初年兵が一頭もくれられないとしたら後が恐い。中には呑みの悪い馬もいる。そんな時は点呼後、再び水くれに馬舎へ行く。こんな時普段目をつけられていると、待ってたとばかり当番「二年兵」などから色々な罰則をやらせられる。内容は取りどりだが、歌、ビンタ、かけ足等。こうした「いじめ」は馬舎だけでない。炊事場と来たらもっとひどい。食缶返納に行き置く所が違えば先ず食缶をかぶせられ、虚無僧(こむそう)のようにさせられ炊事場を巡り終って、ビンタが少くて三〜四位である。悔しくもどうにもならない軍隊生活であった。

権田本市『吾が「人生の思い出」』 1989年(平成1)8月発行 32頁〜33頁
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