ページの先頭

第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第2節:回顧録・作文

権田本市『吾が「人生の想い出」』

第三部 青年時代

軍隊生活

外泊

 第一期の検閲が終ると初めての一泊二日の外泊が許可される。此の時の気持ちは昔の嫁さんが初めて里帰りと云って嫁いだ先から実家に帰る時と同じようだったかも。いやそれ以上の気持ちになったのではないかと思う。
 昔の武士ではないから手甲(てっこう)こそしないが、脚絆(きゃはん)、ゲートルを巻き、肩には外套もこれ又巻いて持ち、服装に関しては誠に厳しかった。それと礼儀である。自分達より下の階級の兵隊はいないわけだから、相手を見れば挙手の敬礼して置けば間違いない。敬礼の話が出たので一言。一人で歩く時と隊伍組んで行動する時は違うが、直属系統の上官で中隊長以上には停止敬礼させられたように思う。
 さて外泊時の様子を思い出して見る事にする。当日朝食時限を以って外出が許されたと思うが、営門出た瞬間、足の早い事、篭の鳥が追い放されたかのように。そして誰の顔見ても微笑んでいた。三島の駅には大勢の初年兵である。上り下りみんな故郷の事思いながら来る汽車の待ち遠しかった事。当時三島から東京迄三時間位かかったと思う。東京から嵐山までも三時間は充分かかったように思う。こうして家に帰った訳だが東京で戦友と別れる時早くも帰営の打ち合せもした。帰営に遅れたら重営倉が待つ事になる。自分も家に帰った喜びは確かだったと思うが、どのようにして過したかは今になっては記憶になく、思い出せないのが残念である。

権田本市『吾が「人生の思い出」』 1989年(平成1)8月発行 29頁
このページの先頭へ ▲