ページの先頭

第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第2節:回顧録・作文

大塚基氏編『ある夏休みのことです』

10.台風のくる日 あきこ

 朝早く、私は、東の空を見たら空はどんよりとくもり、私におそりかかりそうな空もようです。空の黒さとうってかわった音楽が隣の家のラジオから流れ、私の家の前の花はゆらゆらと揺れ、私に、「あきこさん、一緒におどりましょう」とよびかけているようです。
 その時、隣の家のラジオが、「台風六号は紀伊半島の沖合を今とおっています。あさってあたりに関東地方に向かっています。どの家もご注意ください。」とゆって*1いました。私はなんだかこわくなり、ラジオを聞いたとたん家の中にとびこみました。
  ごはんを食べながら、「かあちゃん、となりの家のラジオが台風のことをいっていたようだからかけてもいい。」と言ったら、さっき隣のラジオが言っていたよ うなことをいっていました。そのうち雨がザーザーと降ってきました。母は小さな声で、「ずいぶん降ってきたなあ。」と言って空を見あげました。でもすぐや みました。母は、「おばあさんと一緒に桑つみにいってくる。」と言ってでかけました。
 私はなんだか怖くなりました。だって私が一人なのですも の。でもびくびくしながらもちゃんこ*2を洗ったり、ぞうきんがけをしたりしていました。私は台風のことを聞こうと思いラジオをかけたら、「台風は今だん だん関東地方にむかっております。ご注意ください。」といいました。私は心配でたまりません。また空を見あげました。空の雲は、「風をおこせ、雨をふらせ ろ、お前の家をたたきつぶせ。」と言っているようです。私はますますこわくなり、つい、「かあちゃん早くこうよー*3」と大きな声で、小さな子のように 言ってしまいました。
 台風は去り、私の方*4は心配したわりには少しの被害で、あまりひどい被害はうけませんでした。私はよかったなあとおもい空を見あげました。空の雲は、白い尾を引いたような薄い雲でした。
 私はつい「よかった」と小さな声で言ってしまいました。

*1:ゆって…言って
*2:ちゃんこ…茶碗
*3:こうよ…来てください
*4:私の方…私の地方

大塚基氏編『ある夏休みのことです』 1994年(平成6)12月17日
このページの先頭へ ▲