ページの先頭

第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第2節:回顧録・作文

大塚基氏編『ある夏休みのことです』

5.夏休みの一日 ともこ

 私が目をさますと父と母は、蚕に半分ほど桑をくれてしまっていた。食べ方をよく見ていると、おなかが空いていたかのように、がつがつ桑をたべています。
  私はしたくを取替え、朝飯を食べてから、ところどころ桑の葉のない所に少しづつ桑をくれてから、桑畑に行きました。まだ露が残っていたので、畑に入ると草の葉や桑の葉が足に触れて、かゆいやら気持ち悪いやらでした。それで私が、「露が無くなってから来ればよいのに。」と言うと、母は、「そんなに遅くなる と、日が当たって、桑の葉がしなびてしまうよ。」とおっしゃいました。それからザルに桑の葉を一杯つんだので、しょいかご*1にあけ始めて良く見ると、桑 の葉が、全部と言っていいほどに、私たちが切られたみたいに痛々しく傷がついていました。
 それから二杯つみました。母はしょいかごを背負って、私はザル*2を手で持って帰りました。帰ってから蚕を見ると、もう桑の青い顔はなくなって*3一面が白に変わっていました。
 父と母は桑をくれ、私は夏休みの友*4と、そのほかの宿題をしてからお昼まで遊んでいました。
  午後からは暑いので、昼寝をしたり、勉強したりでした。午後四時頃からまた桑畑に行きました。午前中にしたので、今度は母との間はあまりあかなくなったの で、母に負けずにポッポッとつんで行きました。けれども母の手は機械のように動くので私はどうしてもかないません。父も一生懸命に桑の木を切っています。
 こんどは、明日の朝もくれるので、前よりももっと摘まなくてはなりません。もっとたくさん摘むのかと思うと嫌になってしまいます。けれども母の姿を見ると、私が摘まなくては、母はどうなるのかと思い、一生懸命しなくてはという気持ちが湧いてきます。
 こんどはザルに五杯ぐらい摘んで、しょいかごの中に入れて、持って帰りました。「母は毎日こんな仕事をしているのか、容易ではないだろうな」と考えながら帰るとすぐ家についてしまいました。
  こんどは家に帰っても勉強がないので、桑くれの相手をしました。くれているそばから蚕は、大変おなかがすいていたかのようにまた、がつがつ食べています。 蚕は、自分の食べたい時に食べられなくて、不自由だなあと思いました。そのうち桑くれはおえました*5。炊事の手伝いを少ししました。
 夕食後、みんなは、ラジオを聞いていましたが、私は慣れない桑つみで、すっかり疲れてしまって、すぐねむってしまいました。

*1:しょいかご…背負いかご
*2:ザル…竹のかご
*3:桑の青い顔はなくなって…蚕が桑を食べてしまった様子
*4:夏休みの友…夏休みの宿題集
*5:おえました…終りました

大塚基氏編『ある夏休みのことです』 1994年(平成6)12月17日
このページの先頭へ ▲