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第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第2節:回顧録・作文

大塚基氏編『ある夏休みのことです』

3.花火 みちえ

 きのうの、熊谷の花火はとてもきれいだった。顔見知りの吉田の小林さんという人が募集したのでたいへんみんなが集まった。
 私達の部落だけでも三分の二ぐらいは行ったかと思う。県道のすぐそばの道に集まった。何ごとか話しているうちにオート三輪*1が来た。オート三輪の運転手さんも一つの部落でこんなにいるのかとびっくりした。
 全部乗るとぎっしりであまり揺れなかった。
  途中、古里のちょい*2といった所の塩(しお)という所で、一台の白い大きな観光バスが故障していて遅れてしまった。私は何分ぐらい待つのかと心配した。 でも、そのバスがどうにしたのかわきによったのでとおれた。そのバスとすれちがう時、何と言うバスかと思って見たら武蔵観光というバスで、暖房車と書いて あった。このバスは「いいバスだな」と思った。
 このバスを通り過ぎると熊谷市内に向かってもうスピードで走り始めた。私はへりに乗っているの で、風を切ってよい気持だった。早いのでじきに*3ついて、みんな一緒に土手に花火を見に行くとたいへんなこみようだった。花火を見ながら土手に行く途中 にみんなとはぐれてしまった。隣の家の三人と、私の家の祖母と、母と、私は一緒だったが、ほかの家の人達とははぐれてしまった。私達が困っていると、とな りの叔父さんが見つけてくれて一緒になった。ほっと一息すると、花火がまっていたかのように美しく上がり始めた。土手の芝の所におちついて、家から持って きたにぎり飯を食べながら見た。
 いろいろな花火が、やなぎのようなのや、大きく広がって胡麻をえる*4ようにバチバチと色が変わって吊りがさが 落ちてくる。緑や赤がだんだん消えて行く。仕掛け花火も十いくつかで奇麗なのばかりでした。川の中に魚が泳いでいるのもありました。仕掛け花火が終り始め ると、やたらと、いろいろな花火が上がります。この美しさはなんとも言えない美しさです。
 一番きれいだったのは、仕掛け花火では最後の大橋ので した。長く続いてその一本の線が、銀がさあさあ負って落ちてくるのです。それが本当にうつくしかった。帰りには前に一台の車も走ってないので、もうスピー ドで、行く時よりも早いようでした。みんなは、「こんなに早いのじゃ*5小川まで乗って行きたいなあ」と言った。それで家に帰ってもまだ十一時だった。
 きのうはこんな日でとても楽しかった。

*1 オート三輪…三輪の自動車
*2 ちょいと…少し
*3 じきに…いくらもたたないで
*4 える…いる
*5 早いのじゃ…早いのなら

大塚基氏編『ある夏休みのことです』 1994年(平成6)12月17日
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