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第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第2節:回顧録・作文

大塚基氏編『ある夏休みのことです』

2.私の一日 えみこ

 前の日、母が私に、「あしたの朝くれる桑も今日つんどかなくては、しょうがないから、一生懸命つんでくんないな*1。」と言った。私も母も一生懸 命つみました。父は別の方で根すぐり*2をしていた。暗くなったので家に帰った。帰ってから桑置場に桑をあけて、桑つみ*3を掛ける所に掛けてから、手を 洗いに行こうと思ったら、母が、「桑をくれてくんな。」と言ったので、すぐ桑置場にみかい*4をもって桑をつめにいった。私の家では母屋から蚕に桑をくれ るので、くれはじめたら父が帰って来た。父もすぐ桑くれを手伝ってくれた。みんなでくれたので三十分もくれたらくれきった。
 寝ようと思ったら、 母が、「あしたの朝も早く起きて桑つみ*5を手伝ってくんないな。」と言ったので、あしたの朝は早くおきようと思って床に入ったが、起きたのが五時ごろに なってしまった。どこへ摘みに行ったかを聞いとかなかった*6から、祖母に聞いたら、「みょうじん様のうしろの畑へ、朝桑が足りないので、つみにいった よ。」と言った。
 私もいそいで出かけた。三分も行くと畑についたので、さっそくつみはじめた。ざま*7は、めつぶしのざまと三番目のざまがいっ ていた。私はつみながら考えた。私が来たら父や母は来ていたのだから、もっと早く起きなければと思った。それに夕べ*8は寝るのが遅かったのだから、朝起 きられないんだなあと思った。一生懸命につんだら、両方がいっぱいになったので家に帰った。
 蚕に桑をくれていたら、仕事にたのんでいた人が来て くれた。父と母で、「あと一杯つめばまにあうだろう」と話していた。そして来てくれた三人と私でつみに行った。立てどおし*9をつむのだから、桑を曲げて しないとつめないので曲げてつんだ。ときどき虫が食ったところからポキッと音がしておれる。笑いながらつんで、大きいざまがいっぱいになった時、母が、 「ひきり*10にたくさんなったからだれか拾いに来てくれませんか。」と言いに来た。家の前の人は、ひきりがでないからつみにきたんだから、前の家の人に 行ってもらうことに決まった。前の家の人は話好きだからねんじゅう*11話しをしてくれたのに、その人がいなくなった後はちょっとさびしいようだ。その日 は暑いので背中のシャツがびっしょりになって、くっついてしまうので気持が悪かった。
 だいたいいっぱいになったので家に帰った。桑つみをおきに行くとき時計を見たら九時すぎだった。休みに近かったので、少しひきりをひろったら休みになった。
 四十分も休んでから、少ししたら、お昼のサイレンがなってしまったので仕事に来てくれた人に、食べに行ってもらった。二十分ぐらいしたらまた来てくれたのでまたひろった。午後からは夕方までひきりひろいをした。

*1:くんないな…ください
*2:根すぐり…桑の下枝取り
*3:桑つみ…桑を摘む道具
*4:みかい…竹のかご
*5:桑つみ…桑の葉を摘みとること
*6:聞いとかなかった…聞いておかなかった
*7:ざま…竹の背負い籠
*8:ゆうべ…昨夜
*9:立てどおし…長くのばしている桑の木
*10:ひきり…繭を作るようになった蚕
*11:ねんじゅう…いつも

大塚基氏編『ある夏休みのことです』 1994年(平成6)12月17日
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