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第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし

第1節:ひと・生活

釣り・鮎漁

一人一話

鮎 杉田寅造

 鮎の味は何といっても生酢に限るね。竹筒に酢を入れて、腰にぶら下げて出かける。獲つたら生きている中に竹筒の中にブチ込んでおく。愈々漁が済んでサテ一杯という時に、おもむろにこれを取り出し、ズブリズブリと丸切りにし、指で摘(つま)んで口の中に放り込む。先ずこの味は到底此の世のものではないね。正に天国に遊ぶ思がしますね。
 うるかの油味噌も仲々乙なものだ。うるかで少量の野菜をいため、味噌を加えて適宜味をつける。料理法は至って簡単ですよ。ホロ苦いうるかのあと味は苦たらんとして苦たり得ず、甘たらんとして甘たり得ず、一度食べたら忘れることの出来ない醍醐味ですよ。酒の肴に勿論佳し、お茶漬の副物にして又極めて妙というところでしよう。
 鮎も昔の方がよく獲れて面白かつた。何時の夏だつたか杉山*1で鮎漁をした時、瀬張りをしている中に五寸位のヤツがヒヨロヒヨロおとしへもぐり込む。たゝいて見たら五十も入つていたことがあつたつけ。世の中がせち辛くなつたせいか、鮎まで獲れなくなつた。獲れないから巣までせめたてて追い廻す。益々数が減つてしまう訳ですよ。
 鮎漁をやるならいつでも網を持つて出て来ますぜ。今年は琵琶湖の鮎を放流したというし、水の具合で大分肥つているらしい。一つやつて見たらどうです。但し腕の方は余りあてにならない。相手が内田武一君だから、少々心細いという訳ですよ。呵呵(かか)。
 〔註〕且つて本紙で紹介した〝日本一の釣りの名人〟佐藤垢石氏によれば「鮎酢……青竹を切つて一節づつの竹筒を作り、その中に酢と塩を適当に入れ、これに漁りたての鮎を一尾頭から入れて半日夏の炎天に曝して置くと、竹筒のなかの酢が沸きたつ。しかし酢は殺菌剤であるから鮎は腐敗せず、夕方までには素晴らしい味の酢のものできる。青竹の香りも鮎肉に滲透した風雅な趣を添え、これを膾として膳にのせれば、一杯、二杯思はず芳醇に盃を過ごすであろう。」

1*:嵐山(あらしやま)の誤植と思われる。

『菅谷村報道』24号(一人一話) 1952年(昭和27)8月1日
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