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第6巻【近世・近代・現代編】- 第4章:教育・学校

第3節:中学校・高等学校

菅谷中学校

菅谷中学校々舎落成式を前にして

                村長    高崎達蔵
                建築委員長 大野幸次郎
 菅谷中学校々舎新築については村民各位の絶大なる御協力と御支援を頂きましたにも拘らず工事が意外に延引し御心配をかけ何とも申訳ない。幸い校舎は(附属品を除き)完成し七月三日から生徒を収容して居る実情で附属建物の方も便所は完成、目下宿直室兼小使室の方を施行中で之れが完成次第落成式も実施する運びに至つたことは御同慶に堪えない。此の機会に工事の延引した理由其他二、三の点について申述べ皆様の御了解を得たいと思ふ。
 (一)工事の遅延した理由
(1) 契約による工事日数に無理があつたこと、契約日数は百二十日(自昭和二十四年十月七日至二十五年二月三日)本校舎附属建物を合すると延坪二百六十二坪然も御覧の通りの施工法で従來の建物と著しく異つて居り、当然同一坪数でも労力を多く要することは承知してゐたが、そこを無理しても本春中学を卒業する生徒をたとへ一週間でも新校舎に入れてやりたい、又生徒もそれを熱望して居つたので其の点請負者にも充分了解の上で契約したのである。
已に完成して居る隣接町村の学校建築の実情を見ても契約期間内で竣工したものは殆ど稀である点から考へても工事期間は最短日数で契約するので施工者にとつては不可能の日数ではないが事業として採算を考へると無理な日数となるものと思はれる。
(2) 工事の施行時期も惡かつたこと。
 契約は十月七日であるが諸準備のため実際工事に着手したのは十一月からで、契約期間が年間を通じ最も寒く又最も日の短かい時であつたので能率的に考へても條件のよい時期の半分位の能率と思はれ施行時期の悪かつたことも累積して工事遅延の一因をなして居ると考へられる。其の上十一月上中旬の天候不良並びに正月が中間にあつたので暮から年始にかけ約半ケ月職人の出働が非常に少なかつた等両方面で約一ケ月近く実働日数が減じて居るのでそれ等も工事遅延の一因をなして居るのであらう。
(3) 資金の不円滑のため
 遅延の最大原因と認められるものは資金の不円滑にあつたと思ふ。前述の日数も時期の良否関係も資金面に於て円滑自由であれば遅延日数も或程度挽回出來るが資金が円滑でないと計画も予定通り実施出來ないので他の條件が良好であつても其の効率を充分に発揮できないためいよいよ工事は遅延せざるを得ない実情となる。現在は資金さへあれば資材の入手は殆んど心配ないので其の点施工者としては有利な立場となつたが、反面金融面が日一日と詰りそのため資金難となりこれが直接に工事に至大の影響を及ぼして居る。其の他工事の施行方法並びに建築様式が著しく異つて居るために技術面に於ても困難があつたこと等も間接に遅延の因をなしたであらう。請負者の指名に於ても資力、経験、技術陣容設備其他について充分調査検討し特に資力は第一條件に入れ委員会としても慎重に選定した次第である。工事施工中も最も苦心したのは請負者に対する前渡金支払の点でこれが適否は工事に直接関係があり工事の促進をするには先づ前渡金を支払はなければならないし、それかと云つて過払となれば万一の場合は村民に損失を及ぼすと云つた具合で其の間工事の進行と支払との関係については少なからず苦心した。
以上述べた様な狀況で委員会としても工事の促進についてはずいぶん苦心もし亦努力もしたが結果から観て約五ケ月も延引したことは村民の皆様に対し深く御詫び致す次第です。只委員会として竣工の遅延したことは何としても申訳がないが竣工した校舎が工事費の極めて低廉なるに拘らず建築様式では県下に類例がなく極めて理想的で内容外観共に明るい感じの所謂「モダン」な校舎であり工事施工に於ても他に決して劣つて居らないことを確信を以て皆様に御報告申上げることの出來たことを御了察願ひ工事の遅延を始め色々御迷惑をかけたことに対し御許しを乞ふ次第です。
 (二)報償金について
請負工事に対し完成した場合には施工者の労苦に対し慣例として感謝狀に金一封を添へ贈呈することは各地に於て行なはれて居ることは皆様御承知の通りである。本委員会としても請負金額があまりに安いので工事完成後は例によつて報償金も出さなければならないことは折々話題となつたが正式に委員会で検討されたのは三月十三日の建築委員会であつた。当日の委員会は工事経過報告並びに工事促進に関する対策協議会であつたが其の節促進の方途として報償金の件が審議された。当時の狀況として工事が遅々として進まないのは主として資金関係にあることは委員一同承知して居つたので報償金の件が出ると各委員とも異議はなかつたが金額の点で慎重に審議が行なはれた、御承知の通り昭和二十四年度は学校建築に対し国庫補助打切のため本村の中学校建築予算でも全然国庫補助金は計上してなかつたが幸ひ着工後補助金が出ることゝなり補助申請の結果五十四坪が補助対照として承認され三十万五百円の国庫補助金を得たので結局補助金の三十万円を報償金として支出することに満場一致で決議されたのである。
 (三)工事進行狀況七月八日現在
(1)中学校新築校舎本校舎完成
 附属工事電気工事一部未完成近日完成の予定
 附属品教卓五下駄棚二五〇人分戸棚一個未入荷
(2)附属建築 1便所完成 2渡廊下完成 3宿直兼小便室数日後完成 4渡廊下材料全部入荷目下工事中
工事進行の狀況は大体右【上】様の次第で漸く今一息と云ふ所迄こぎつけました。
 (四)落成祝賀式典の計画
六月三十日の建築委員会で落成祝賀の式典について協議の結果七月二十日頃行ふことに一応決定を見た。但し工事の進捗狀況と関係があるので日取りの確定は常任委員会で狀況を判断し決定することに一任された。
(1)当日の行事。中学校新築予算中に特別に落成式についての費用として予算はないので計上予算の範囲内で経費も支出し特別に式の費用として一般村民或は村からの支出を願はないことに議決されたので従つて当日の行事も特別の催物などなく(中学校の生徒成績品展示等は別)型通りの式典を行ひ終了後簡単に祝賀式を行ふ予定である。
(2)祝賀式の計画内容
区別    人員   経費内訳         処要金額
來賓    一三〇名 折詰七〇円赤飯三五円
           記念品代十円 計一一五円  一四、九五〇円
一般村民 一、〇〇〇 するめ一枚十円
           記念品代十円計二十円   二〇、〇〇〇円
生徒     五三〇 紅白餅一人二個宛      一、〇〇〇円
酒     一石二斗              四二、〇〇〇円
雑費                       五、〇〇〇円
 合計                     八二、九五〇円
 註 來賓赤飯及生徒用餅に要する糯米は建築委員一人各一升宛御寄附を願ひ充当することゝなったので記して謝意を表する次第である。
 (五)結びのことば
以上菅谷中学校新築工事経過中工事遅延の理由或は報償金支出決定のいきさつ、工事進行の内容及落成式典に関する計画内容等の概略を申述べたが要するに工事の遅延を始めそれに関係した種々の事柄についても吾々委員としての努力の足りないため理由の如何を問はず村民の皆様に御心配と御迷惑をかけたことに対し幾重にも御詫びを申上げる次第です。只結果として皆様に御心配をかけたが委員会としては御期待に沿ふべく最善の努力は致したつもりであるから其の間に於ける委員の苦衷を御了解が願へれば幸と思ふ。報償金の件についても請負金額がけたはづれに安いので、(坪当九、九二〇円)工事の進行につれ資金面で円滑を欠き兎角工事も遅延勝となるので何等かの手を打たなければ完成期日も予測出來ない実情となつたので校舎の早期完成のため支出を決定したやうな狀況にあるので此の点も御了解を願ひたいと思ふ。
参考迄に入札価格を示すと次表の通りである。
入札者 入札金額   校舎其他   会議室   備考
 A  260万5981円 245万0981円 15万5000円 落札
 B  300万円   285万円   15万円五
 C  325万円   304万8380円 20万1620円
 D  339万5000円 315万円   24万5000円
 E  342万円   320万円   22万円
 F  388万2000円 362万7000円 25万5000円
 G  399万円   369万円   30万円
祝賀式典の計画内容についてもいろいろ御意見はあることゝ思ふが何として経費面で制約があるので不本意ながら前述の程度で御了承を願ひたい。
(二五・七・九記)

『菅谷村報道』4号 1950年(昭和25)7月20日
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