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第6巻【近世・近代・現代編】- 第2章:政治・行政

第2節:昭和(町制施行前)

菅谷村

論壇

新しい村つくりは政治の還元から

 地方自治体においてよく論議され言ひふらされる言葉に新しい村つくりとか新村建設といふ言葉が用いられる。この意味は非常に広範囲であり美辞であるが実行はむづかしい言葉である。
 都市計画、庁舎建設計画、道路計画、のように具体的、立体的なものと産業振興、社会福祉的なものの様に平面的なものとある。立体的計画の根本施策たるべき平面的施策を、村の政治を、どの様にして村民に結びつけ産業に関連を持たせて、村民に政治の還元を計るかについて考へることこそが、明るい村つくりの根幹となるのではなからうか……。前者のみの新しい村つくりに血道を捧げるならばスマートなビルディングに乞食が寝起きしているに等しい最低の政治形態であるからである。
 立体的施策は執行者も議員も誠によく考へ論議されることが多い。教育問題にしろ、庁舎の問題にしても然りである。当然にこれ等の問題は重要問題である。私は四年間の議員生活当初にこれが地方議会の総てかと思った位である。而し乍ら現在の中央、地方を通じ、中央集権的色彩の濃くなって来た昨今の政治体制においては、これ等の懸案を解決するには非常な困難と時間を要するものである。これ等の問題解決と同等以上に考へなければならぬのは、その地方、その村の住民構成と産業構成、これの村政への結びつけ、これをよく考へた新しい村つくりをし、政治の還元を計るところに地方自治体の責任があるのではなからうか……
 そもそも政治の還元は教育、道路、庁舎建設の様な立体的問題の解決で終るものではなく、住民の構成がどうなっているか、農業、商業、工業、勤労者の分類により、その自治体の特色を打ち出し、村の性格を定め、特色ある自治体が作りあげられるところに、地方自治体政治の住民への政治の還元がなされるからである。
 本村を例にとればその中軸は言ふまでもなく農業である。農業の経済的向上なくして商工業の発展はあり得ない。農民の購買力の培養の施策こそ、商工業をも共に発展させる基本的平面的な施策ではなからうか。……
 今や農業経営の体質改善が叫ばれているとき、米麦農業の転換的施策が打ち出されるならば、特色ある自治体建設の布石となるであらう。
 又勤労者にして見ても、村民税の四割をも納めながら、勤労同志会に五万円位の助成金では政治の還元とは申されない。勤労者は納税の点を見ても総て特別徴収であり、何んら自治体の負担なく徴収され、その徴税率は九〇%以上である。この村は農村でありながら勤労者の多いこともこの村の特色といってよいだろう。
 而し乍ら労働者の吸収的施設も考へられず、又これ等の要求も余りなされていない。
 この様な特色を具体的に要求し、これを受けてたつ政治体制がとられてこそ、「村民による村民の政治」が確立され、真の明るい村つくり、新村建設がなされて行くであらう。執行者も議員も、新しい村つくり、ガラス張りの政治を公約されて居られるので、今後の施策を見守りつつこの実現を願ふや切である。
(武蔵酪農 専務 山田巌)

『菅谷村報道』111号「論壇」1960年(昭和35)6月10日
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