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第6巻【近世・近代・現代編】- 第2章:政治・行政

第2節:昭和(町制施行前)

菅谷村

再び議長となるについて

村議会議長 山下欽治 

 協定による議 長満期交替の選挙にあたり、議会満場一致の推選に依り再び議長となることとなりました。不徳不敏*1、よくその大任を全うし得るや否や、甚 だ心もなく、思うのでありますが、議員諸君の御協力と御支援を期待致しまして敢てお受けした次第であります。村民各位の御理解ある御協力を切にお願いする 次第であります。
 過去約一年間、まことに不手際なことでありましたが議長をつとめておりまして感じましたことは、議会と村当局との関係について の考へ方が、昔流の考へ方、言い換えれば旧町村制当時の考へ方が一般社会にも執行部にも、そうしてまた議会自体にも余りにも残り過ぎておる、と云うことで あります。地方自治法施行されて満十年、未だに此の状態であるかと、時に感無量なることもしばしばであります。議会の運営に当って最も困ることはその為に 来たす結果が時に法的に違法行為にあらざるや?という疑念の起る様な場合であります。ものの考え方の相違から起る相克と矛盾、それは単に観念の相違の問題 として片ずけられない場合があります。何故なら、議会は法に依り法に基づいて存在する機関であり、従ってその運営は自ら法に依り、法に基づいての運営が基 本でなければならないからであります。
 旧法に依る議会は議会自体が村長を選任し、その執行に直接積極的に関与したのでありますが、現在の地方自 治法は議会・執行・監査の三権を完全に分離独立せしめております。村政の運営は村長と議会の相互の頡頏(きっこう)と牽制(けんせい)の上に切磋琢磨 (せっさたくま)の理想の実現を期待しております。即ち議決は議会の責任であり、その議決を執行するのが村長の責任であり、その執行の可否を決するのが監 査の機関であります。
 地方自治法に於て最も忌避してろおるもの、それは議決と執行の混同であります。議会は常に議決の自由を確保すると共に、その執行に対しては常に厳正なる批判の自由を獲得しておらねばならんのであります。
  世上常に現在の地方自治体における村長と議会の関係は一枚の紙なら表と裏の様なものであり、車とすれば両輪の如きものであると云はれております。法の精神 もその通りでありますが、このたとえ話の解釈も、一般には必ずしも徹底しておるとは云ひ得られないと思います。表ある所必ず裏が存するのと同じ様に、車は 一輪では動かないのと同じ様に議決と執行とは切っても切れない関係であります。事実またその通りであります。只注意願い度(た)い事は表裏一体ではありま すが、表は表であり裏は裏であって、決して同じではありません。両輪は両輪でありまして一つの輪ではないのであります。二つの輪が適正な間隔を持っておれ ばこそ車は走るのでありまして、余りに離れ過ぎたり又は近づきすぎますと、車は止ったり又は倒れてしまいます。
 法に則して、実体を如何に操作して行くか、今後に課せられた問題であると思ふのであります。

*1:不徳不敏(ふとくふびん)…徳がなく、才能が無いこと。自分をへりくだっていう時に使う

『菅谷村報道』84号 1957年(昭和32)10月31日

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