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第6巻【近世・近代・現代編】- 第1章:地誌

第8節:稲村坦元先生原稿「菅谷村史」

根岸志

根岸ハ本村ノ東裔*1ニシテ、西ハ大蔵ニ隣リ、東ハ唐子村河外ノ神戸(ごうど)區ニ續キ、北ハ都幾川ヲ隔テヽ同村河内ノ上唐子(からこ)區ニ対シ、南ハ将軍沢ニ接シ、東西一町半南北二町戸数十四以(もっ)テ一大字ヲ成セリ、斯(この)地々盤*2ノ世説*3ニ曰ク、北方河原ノ幅廣キコト二百間餘リ有ルガ、上(のぼる)ニ南方山根ノ流狹キコト二間ダモ無キニ似(に)ズ、其ガ沿流*4処々ニハ皿淵(さらぶち)・女淵(おんなぶち)・袈裟王淵(けさおうぶち)ナドイヘル名稱往々*5ニ存セリ、是此(これこの)狹流ガ前古*6都幾川筋ニシテ如上*7ノ地盤ガ川北ナリシヲ、中昔*8水瀬渝*9リテ、後世地盤ハ川南タリト、武蔵風土記或書ヲ援(ひき)テ「熊谷次郎直實ガ末孫佐渡守實勝六代ノ孫熊谷佐渡俊直武蔵國比企郡根岸村ニ住シ、同國松山ノ城主上田能登守ニ属シ、根岸村及ビ和泉村ヲ知行*10ス」トアリト載(の)セタリ、蓋シ*11小領主小部落ニ住セシ便宜(べんぎ)ヨリ揣摩*12スレバ、同方面ノ和泉ナルベシト認案*13スルヲ然リトス*14、乃(すなわ)チ世説桑滄ノ変*15亦所以*16ナキニ非ラザルナリ、且(かつ)文政天保ノ交(まじり)タル百年ノ往代ニ在リテ、十六戸等ニモ註*17セラレシ家数ノ、サマデニ増減ヲ覺エザル如キハ、其里習*18質實静淡自ラ綽々*19タル興趣*20アルベシ

稲村坦元先生原稿「菅谷村史」

*1:裔(えい)…すえ
*2:地盤(じばん)…勢力の範囲
*3:世説(せせつ)…世上の風説
*4:沿流(えんりゅう)…流れに沿ったところ
*5:往々(おうおう)…あちこち
*6:前古(ぜんこ)…むかし
*7:如上(じょじょう)…前に言った通り
*8:中昔(ちゅうせき)…疇昔か、さきごろ
*9:渝(かわ)る…変わる
*10:知行(ちぎょう)…土地を支配すること
*11:蓋(けだ)シ…たしかに
*12:揣摩(しま)…あて推量
*13:認案(にんあん)…みとめる
*14:然(しか)…リトスその通りである
*15:桑滄ノ変(そうそうのへん)…桑田変じて滄海となるような大変化、世の変遷のはげしいことをいう
*16:所以(ゆえん)…理由
*17:註(ちゅう)…かきしるす
*18:里習(りしゅう)…村のならわし
*19:綽々(しゃくしゃく)…ゆったりとしたさま
*20:興趣(きょうしゅ)…おもむき

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